この記事の連載
日々激変する世界のなかで、わたしたちは今、どう生きていくのか。どんな生き方がありうるのか。映画ライターの月永理絵さんが、映画のなかで生きる人々を通じて、さまざまに変化していくわたしたちの「生き方」を見つめていきます。
今回は、3月28日から全国公開される映画『山田くんとLv999の恋をする』に注目。
あらすじ
突然恋人に振られた大学生の木之下茜(山下美月)は、失意に沈んでいたある日、オンラインゲームを通じて山田秋斗(作間龍斗)と出会う。高校生ながらプロゲーマーとして活躍し女の子にも大人気だが、無愛想で他人に無関心な山田。最初こそ反発していた茜だが、彼の意外な一面を知るうち心惹かれていく。アニメ化もされ人気となったネットコミックを、『よだかの片想い』の安川有果監督が映画化。
映画が描く「恋愛」にどうしようもなく惹かれるのはなぜ?

時々、無性に恋愛映画を見たくなる。笑って泣けるロマンティック・コメディ。悲痛な運命に翻弄される恋人たちのメロドラマ。長い時間をかけて紡がれる恋の話。ジャンルを問わず、恋の成就や破局、幾度ものすれ違いからの和解を描く恋愛映画をたまらなく欲してしまう。
必ずしも登場人物に共感するとは限らない。リアルからは程遠いファンタジックな恋愛映画は多いし、登場人物の生きる世界や時代だって様々だ。恋愛が映画に必須のテーマだとも思わない。昨今では、恋愛に限らずさまざまな人間関係を描いた映画が増え始め、多様な作品が生まれている。親密な関係性がつねに恋愛に結び付かなくてもいいし、誰かと誰かが結ばれるハッピーエンドばかりが重宝される必要はない。そうわかっていても、映画のなかで描かれる「恋愛」というものに、どうしようもなく惹かれるのはなぜだろう。

人気コミックを映画化した『山田くんとLv999の恋をする』で描かれるのは、オンラインゲームで知り合った、高校生の男の子と大学生の女の子の不器用な恋愛模様。いつも冷たい態度なのにモテモテで、学校内では歩くだけで嬌声が飛んでくる高校生の男の子、という設定や、最初は彼の失礼な態度にムカつきながらも徐々に惹かれていく年上の女の子、というストーリーは、いかにもキラキラした若者たちの恋愛を描くティーンムービーのよう。ふたりを取り巻く友人たちのキャラクターや住環境はあえてコミカルにつくられていて、オンラインゲーム上の世界のように非現実的でふわふわしている。
2025.03.29(土)
文=月永理絵