『死者は噓をつかない』(スティーヴン・キング)
『死者は噓をつかない』(スティーヴン・キング)

 アメリカの、いや世界の「ホラーの帝王」スティーヴン・キングは、一九四七年九月二十一日生まれであり、現時点で七十六歳である。もう高齢と言っていい齢であり、一九七四年に『キャリー』でデビューしてからの作家生活は今年で五十周年を迎えたけれども、その創作力は全く衰える気配を見せない。

 今や巨匠と言っていい存在のキングだが、半世紀の作家生活が常に順調だったわけではない。初期はアルコール依存症や薬物依存の状態で執筆した時期があったし、一九九九年には交通事故で重傷を負った。しかし、ファンならご存じの通り、それらの負の体験すらも必ず小説として見事に昇華させたのがキングという作家なのである。また、初期作品『デッド・ゾーン』(一九七九年)に登場する邪悪な政治家グレッグ・スティルソンは、第四十五代合衆国大統領ドナルド・トランプの政界進出を先取りしていたかのようだと言われているが、キングはTwitter(現・X)で事あるごとにトランプ批判を繰り広げ、とうとうトランプ自身にブロックされたほど、歳を重ねても反骨精神が衰えない人間でもある。彼くらい、不屈のファイターというイメージが強い作家も珍しい。

 二○二○年代に入ってからも、二○二○年には中篇集"If It Bleeds"、二○二一年には『ビリー・サマーズ』と"Later"、二○二二年には"Gwendy's Final Task"(リチャード・チズマーとの共著)と"Fairy Tale"、二○二三年には"Holly"……と、コンスタントに著書を上梓している("Gwendy's Final Task"以外は文藝春秋から邦訳予定あり)。

 そのうちの一冊である本書『死者はをつかない』(原題"Later")は、二○二一年にHard Case Crimeから刊行された長篇である。長篇と書いたけれども(実際、邦訳で三百ページを超えているのだが)、邦訳すれば上下巻が当たり前のキングの長篇としては短めの部類だろう。

2024.07.24(水)
文=千街 晶之(ミステリ評論家)