再度カメラがスタジオに切り替わり、出演者の一人が画面に大写しになった。韓国発のオーディション番組から生まれた、六人組ボーイズグループのリーダーだ。彼は視聴者にもわかるよう、ゆっくり大きくス、ゴ、イと口を動かしながら、胸の前で小さく手を叩く。

「とにかく、良いものにプレミアを付けるのは、肩や腰をマッサージするのと一緒。買うか買わないか悩んでガチガチになったところ、まさに購買筋をほぐしてあげる。人は自分が欲しいものが欲しいのではなく、誰かが欲しいものこそが欲しい。この番組でもよく出演者の方が、失って初めて気づく系の失恋ソングを歌われてますよね。要はあれと一緒で、人は、売り切れて初めて気づく。私はあれが欲しかったんだと。それに、サブスク全盛のこの時代、やっぱりアーティストにとっての生命線はライブです。需要によってチケットの価格が変動するダイナミックプライシングというシステムもあるにはありますが、前売りですべて売り切ってしまう音楽ライブとは相性が悪い。もちろん一般発売後もチケットが残っているライブなんて論外。だから、餅は餅屋、プレミアは転売ヤーなんです」

 ついに抜かれた。慌てて表情をつくってから、映っているのが別のバンドのフロントマンだとわかる。自分と同じく前髪が目にかかった彼は、ワイプの中で微動だにしない。

 続いて、どこかのライブ会場前で収録されたインタビューが流れた。二十代と思しき若い男女が、プレミアの付いたチケットを笑顔でカメラ前に差し出す。

「チケットが取れないのはそれだけ人気がある証拠だから、まずそこで判断します。いくら音楽そのものが良くても、人気ないアーティストのライブに行くのは恥ずかしいし、時間と体力の無駄だから。まず最初に気になったアーティストのチケットが転売されてるかどうか調べて、ちゃんと転売されてたら、そこで初めてライブに行こうって思いますね。たまにわざわざ高いチケットを買おうとする意味がわからないって不思議がられるけど、グッズを買うのと同じじゃないですか。お金を払って買ったグッズを身につける。その人が身につけたTシャツとかタオルを見れば、どれだけそのアーティストが好きかわかるのと一緒で。でも、グッズって邪魔だなと思ってて。だからその分、チケットにグッズを身につけさせるような感じですね」

2024.07.21(日)