りきのあるアーティストこそ、転売を通してしっかりとプレミアを感じるべきです。定価にプレミアが付く。これはただの変化じゃない。進化だ。だから、私は発展の展と書いてそれを【展売】と呼んでいます。良いものの価値が上がるのはごく自然なことで、それで得た自信がまた次の作品に反映される。チケット不正転売禁止法がなどと言いながら、いざ自分のチケットにプレミアが付くとそれが可愛くて仕方ない。子供なんて要らないとか言いながら、いざできたらできたで結局親バカになるのと一緒ですよ」

 スタジオ中央で、司会者の男はうっすら笑みを浮かべたまま微動だにしない。メガネをかけた小太りの男が画面の中で話し続ける。けん。エセケンの愛称で皆に親しまれているこの男が、【Rolling→Ticket】の顔でありすべてだ。各メディアに連日取り上げられ、今やその名は音楽業界のみならず、実に幅広い層に知られつつある。出てきた当初の叩かれようを思えば、こうした世間の反応こそが、エセケンが追い求めるプレミアそのものと言えるだろう。

「誤解されている方も多いと思うので、まずこれだけはちゃんとお伝えしたい。【Rolling→Ticket】所属の転売ヤーが転売で得た利益は、弊社と契約を結んでいるアーティストに限り、きちんと分配されています」

 ワイプに抜かれる出演者たちはそれぞれ前のめりになって、小首をかしげたり、大袈裟に頷いたりしている。右隣に並んで座るバンドメンバーは全員がつまらなそうな表情をしていて、それがいつ抜かれるか、気が気でない。そればかりか、カメラの遥か奥、スタジオの隅でよそ見しながらぼうっと突っ立っているマネージャーを見つけて、彼らと自分との圧倒的な温度差を感じる。

「また、私が立ち上げから携わっているSNSアプリ【Rolling→Voice】、通称「転の声」も好調です。【Rolling→Voice】は、これまであえて転売アンチの意見も積極的に取り込んできたことで、幅広いシェアの獲得に成功しています。元はX社のサードパーティー製アプリとして開発された「転の声」ですが、今や転売には欠かせない重要なツールとなっています。ここまで転売の良い面ばかり話してきましたが、もちろん、転売にだって悪い面はあります。まず、筋トレと一緒で、一度やり出したら歯止めが利かなくなる。プレミアに執着するあまり、チケットの販売価格に過剰な負荷をかけたり、付いたそばからすぐそのプレミアを見せびらかしたりしてしまう。その点、弊社所属の転売ヤーには、各アーティストの状態に合ったバランス良いサポートを心がけるよう、しっかりと指導を行っています」

2024.07.21(日)