ようやく、私は理解した。

 ここは戦場だ。

 甲冑(かっちゅう)をまとった武士たちが、刀を振り、槍を掲げ、怒号とともにあたりを駆け回っている。カチャ、カチャという、せわしない音は甲冑が鳴る音だった。

 火が回り始めたお寺らしき建物に向かって突っこむ大勢が甲冑姿ばかりなのに対し、建物から飛び出してくるのは、白っぽい寝巻のような着物を着た男たちだった。それを弓矢が、槍が、さらには銃声が容赦なく襲い、丸腰に近い寝巻姿の人たちはまさに鎧袖一触(がいしゅういっしょく)、まともに抵抗することもできぬまま倒れていく。

 ここはどこなのか。

 なぜ、自分はこんな場所にいるのか。

 暗がりの先から甲冑の音が不意に迫ってきたり、刀だろうか、硬いもの同士が衝突する音のあとに狂気を帯びた叫びが上がったりするたびに、人がいないほういないほうへと逃げ続けていたら、縁側から建物内へと上がりこんでしまった。

 柱にも、(ふすま)にも、床板にも、そこらじゅうに火矢が突き刺さり、あっという間に炎が広がっていく。床を踏み鳴らす幾つもの足音が建物のあちこちから湧き起こり、誰かを探しているのだろうか、荒々しい叫び声がやかましく響き渡る。

 そのとき、長い廊下の突き当りから、

上様(うえさま)、上様ッ」

 という若い男の声が聞こえた。

 建物に充満する獣めいた怒声とは異なり、何かを必死に訴えるその切実さに誘われ、私は廊下を走る。

 突き当りに面した襖を開け放った。

 突然、空気が震える感触とともに、銃声が響いた。

 私の視界は真っ白に染まった。

 それから、黒の一色へと沈んでいった。

 目が覚めて、意識が少しずつはっきりするにつれ、見覚えのない部屋に寝ていることに気がついた。

 どこですか、ここは?

 カーテン越しに侵入した薄ぼんやりとした光に部屋が浮かび上がる。

 ぐるりと見回したところ、部屋の広さは十畳ほど。ベッドの隣にはかわいらしいアンティーク調のテーブルが置かれ、そこには、私のカバンと脱ぎ捨てたままの昨日の衣類一式が散らばっていた。

2024.07.06(土)