「デリバリーキングです~」

「はーい」

 男性の声で返事がする。少ししてドアが開いた。配達員の男性が、リュックの中から食事を取り出している。

「えっと、ヒレカツ定食と、お子様ランチですね」

 思わずソファから立ち上がる。今、お子様ランチと聞こえた。やっぱり、あの部屋には男性以外に誰かいるのだ。言いようのない焦燥感に駆られる。義務感に近いかもしれない。そして、あの「思い残し」の女の子の顔が浮かぶ。寂しそうな視線を思い出す。もしあの女の子がここにいるとしたら、大岡さんが思い残す理由が何かあるはずだ。確かめなければならない。

 私は駆け足でエントランスを出て、ベランダのほうへまわった。フェンスの下から手を入れて、小石を数個つかむ。フェンスを登り、一〇八号室のベランダに一個投げ入れる。コツンと硬い音を立てて、小石がベランダ内に落ちる。

 やましいことがあったとしても、音の出どころは気になるだろう。一瞬でもカーテンを開けてくれれば、そのときに部屋の中を確認できるかもしれない。もう一個投げ入れる。コツンと硬い音がする。動きはない。握る小石が冷たい。もう一個投げる。室外機にでも当たったのか、カーンと金属の大きな音がした。次の瞬間、ぴったり閉じられていたカーテンがすっと開いた。中年男性が顔をのぞかせる。私は木の陰でバレないように体をすくませながらも、カーテンの隙間から見える室内をのぞいた。そして、ひっと小さく悲鳴をあげる。カーテンの隙間から見えたのは、床にぺたんと座った女の子の姿だった。片方の足首にロープが巻いてあり、その先に大きなダンベルが結わいてある。足枷にしているのだ。長い髪を二つに結って、白いTシャツにピンクのスカートを穿いている。それは、大岡さんの「思い残し」の女の子そのものだった。

 いた……見つけた! 「思い残し」の女の子の身に何か起きている。あの男性の娘だとしても、あれは虐待だ。私は勢いよくフェンスから飛び降りて、エントランスホールに走った。管理人室にはまだ灯りがついている。

2024.05.11(土)