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凄惨な場面に息づく歌舞伎の美学

 見得は単なるポーズではなくリアルな感情の動きが行動に現われた結果で、それが歌舞伎独特の様式美となって昇華したものだったのです。

 では団七の内面、殺人という行為に及んでしまう人間の心情とはどのようなものなのでしょうか。

「はなから団七に殺意があったのではありません。たまたま刀の刃が義平次に当たってしまい、『親殺し』と騒ぎ出したためにやむにやまれず……、という切羽詰まった心境です。もう後戻りはできない。親父さんに申し訳ないという思いを抱きながらも腹をくくる。そこからは明らかな殺意を持っての行動です。そこに『女殺油地獄』の与兵衛との違いがあります」

 与兵衛とは油屋の惣領息子で、借金の返済に困ったあげくに日頃から何かと世話を焼いてくれていた同業者の女房・お吉を殺してしまう人物のことです。

「お吉にお金を借りに行ったけど貸してくれなかった。だけど返済の刻限は間近に迫っている。与兵衛の頭の中はお金のことでいっぱいで、刺したら相手がどうなるかまでも頭が及んでいないのではないでしょうか。とにかく必死。そして逃げ回るお吉を追ううちに、その行為がだんだん快楽になっていき、殺めてしまった後でしでかしたことにハッと気づく。非常に刹那的に生きている人物です」

 喧嘩沙汰も日常という侠客の団七と違って、商人の与兵衛は刃物の扱いに慣れていません。

「だからビクビクしながら体ごとつっこんでいく。『夏祭』に比べてぐっとリアルな演技が必要となり、ふたりともこぼれた油にまみれての凄惨な展開となります。ですが、その状況であっても場面として美しくなければならないのは『夏祭』と同じで、そこに歌舞伎の美学があります。現実だったら目を背けたくなるような泥まみれ、油まみれとなっての殺戮をお芝居としての見せ場にしてしまう。歌舞伎だからこその醍醐味だと思います」

 与兵衛は愛之助さんの叔父・片岡仁左衛門さんが二十歳の時に演じて評判となり以後仁左衛門さんの当たり役となった役で、『夏祭』同様に松嶋屋ゆかりの演目です。

 上演中の『夏祭』では、愛之助さんは団七と義兄弟の義を結ぶ徳兵衛の女房・お辰も演じています。

「心意気は男たち同様でそれゆえに大胆な行動も見せる、非常に魅力的な女性です。団七と二役の彩りの違いも含めてお楽しみいただければと思います」

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四月大歌舞伎

2024年4月2日(火)~26日(金)【休演】10日(水)、18日(木)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/869

坂東玉三郎特別公演

2024年6月1日(土)~9日(日) 【休演】5日(水)
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/play/885

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