この記事の連載
- 片岡愛之助インタビュー【前篇】
- 片岡愛之助インタビュー【後篇】
映画『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』では派手なファッションとコテコテの関西弁で大阪府知事を演じ、最新の舞台技術を駆使した娯楽大作『西遊記』では、孫悟空としてワイヤーアクションも披露して暴れまわるなど、幅広い活躍で注目を集めている片岡愛之助さん。
そして愛之助さんが何より大切にしている古典歌舞伎でも充実した舞台が続いています。歌舞伎座「四月大歌舞伎」で上演中の『夏祭浪花鑑』を始め、近年に演じた役を通しての歌舞伎への思いをうかがいました。
大阪人魂で演じる等身大の熱い男・団七
『夏祭浪花鑑』で演じている団七九郎兵衛は、愛之助さんにとってさまざまな意味で思い入れの深い役だそう。
「師であり養父の(片岡)秀太郎の父である十三世(片岡)仁左衛門が何度も勤められた、松嶋屋にとって大切なお役です。それを十三世から受け継いだ(片岡)我當の伯父に習って初めて勤めたのは17年前。その後も何度とか勤めさせていただいていますが、歌舞伎座では初めてなのでとても嬉しいです」(愛之助さん・以下同)
タイトルからもからもわかるように物語の舞台は大坂、侠客である団七が恩人のために奔走する中で起こる出来事が描かれています。
「団七は堺の魚売りなのですが自分の出身地も堺。この作品に登場する男たちのように気性は荒いけど一本気で情に厚い、そんな人がまわりにはたくさんいました。そうした土地柄特有の気風を肌で感じながら育ったせいでしょうか、特に演じようとしなくても自然に団七になれる、このお役にはそんな感覚があります。大阪弁に関してはネイティブですから、せりふも自分の言葉としてスッと出てきますしね(笑)」
等身大の人物がまさに目の前で生きている、そんな心持ちにさせられるところが愛之助さんの団七の魅力です。それに感化されてのことでしょうか、町ゆく通行人に至るまで登場人物それぞれが生き生きと輝き、舞台は人々のエネルギーが満ちています。
「ですから舞台にいることが非常に楽しいです。皆さんそれぞれがこのお芝居やお役を愛し、真正面から取り組んでくださっているからこそで、僕のほうがむしろ助けられているように思います」
事件が起こるのは夏祭の夜。舅である義平次の悪巧みを団七が阻止したことからふたりはいさかいとなり、ふとしたはずみで団七が手にした刀が義平次に傷を負わせてしまいます。そして引き起こされるのは泥まみれとなっての殺人事件で、その場面はこの作品の大きな見どころです。そこで特徴的なのは歌舞伎特有の見得がいくつも盛り込まれていることにあります。
「初めて団七を勤めさせていただいた時は、ひとつひとつの見得を形よくきちんとすることにとにかく追われていました。それが回数を重ねるうちに、なぜそこでそういう形になるのかが腑に落ちるようになっていったんです。例えば滑っておこついて義平次を見失い、ふっと覗き込んだらそこにいた! というようなことが型になっていた……。そうしたことに気づいてからは見得から逆算して演技を考えるようになりました」
2024.04.20(土)
文=清水まり
写真(インタビュー)=佐藤亘