「『税の代わりだ』って言ってたそうです」
風向きが変わりつつあるのを敏感に感じ取った三男が、即座に説明を加えた。
「『山烏が、宮烏に礼を尽くすのは当然である』とも。市の真ん中でのことですから、調べれば証言してくれる八咫烏はいっぱいいるはずです」
すかさず援護に回った長男の言葉に、当主は頭を搔きむしった。
「全く。とんだ宮烏もあったものだ」
「と、当主さま。わたくしは、宮烏の誇りを舐められては、と」
「痴れ者が!」
――びりびりと、梁や柱が震えるような大喝であった。
和麿は「ひぃ」と息を飲んで竦み上がり、雪正の三人の息子達も、当主の大声に揃って飛び上がった。
「この、一族の恥さらし者め! 宮烏の責務の何たるかも知らず、ただふんぞり返ってばかりいる貴様が、善良な民に何をしてくれた。宮仕えもしておらぬ身で、税だと? 片腹痛いわ!」
貴様の父親は何を教えておる、と怒鳴られて、青くなった和麿の目に、うっすらと涙が浮かびだした。
「も、申し訳ありません」
「貴様が真っ先に謝るべき相手は、わしではなかろう」
「は……」
一瞬、それでも憎々しげな顔になった和麿に、今度は雪哉が悲鳴を上げた。
「そんな。自分の立場も心得ず、失礼をしたのは僕達の方です」
本当にすみませんでしたと頭を下げられて、和麿は絶望した顔つきになった。
「和麿?」
当主に恐い顔で名前を呼ばれ、和麿はぐっと唇を嚙む。ただでさえ深くお辞儀をした姿勢の雪哉を前に、ほとんど、平伏するような姿勢で謝罪をする羽目になる。
「……どうも、すみませんでした」
屈辱的な体勢で、ぼそりと呟かれた言葉を最後に、和麿は部屋の外へと連れ出されていった。この後、広間の方でやきもきしている父親ともども、改めて当主の𠮟責を受ける事になるのだろう。
大きくため息をついた当主は、改めて垂氷郷の一行に向かい直った。
「身内が、本当に済まぬことをしたな。それで、怪我の具合はどうなのだ、雪哉」
2024.04.15(月)