藤波に逆らう気をくじかれたあせびは、尻ごみしつつも藤波と一緒になって、棚の間を行ったり来たりした。置いてある物は、いかにも高じきな陶磁器や銀の装身具と数限りなかったが、楽器らしきものはいっこうに見当らない。長く藤花殿に戻らないと、うこぎが不審に思うだろうとあせびがやきもきしていると、遠くから藤波を呼ぶ声がして、二人はぎょっと顔を見合わせた。

「藤波さま、今回は諦めて、また出直したらどうでしょう」

 藤波にも女房の声は聞こえているだろうに、その顔は、素直にうんとは言いそうになかった。こうなった藤波は頑固であると、あせびは経験上知っていた。

「そんな! 次がいつになるか分からないのに……」

 藤波は駄々をこねたが、女房の声はどんどん近付いてきている。とうとう泣きそうになった藤波を前に、あせびは覚悟を決めた。

「分かりました。藤波さまはとりあえず、一旦外にお出になって下さい」

 それでなんとか誤魔化した後、戻って来てくれればいい。

「帰っておいでになるまで、私も探しておりますから」

 渋々だが、取りあえずそれで納得した藤波は、女房らに見つかる前にと外に出た。

「鍵は開けておきますから、見つけたら外に出て待っていて下さいな」

「ええ、そうします。なるべくお早くお願いします」

「もちろんですわ」

 がこんと音を立てて扉が閉まる。足音が遠ざかるのを確認すると、うっすら光の漏れる扉にもたれ、あせびはがっくりと肩を落とした。もし一人でここにいるところを滝本にでも見つかったら、とんだ大目玉だ。どうしてこんなことに、と思わなくもなかったが、嘆いてばかりいても仕方ない。あせびは気合を入れて無数の棚へと向かい合ったのだった。

 たぶんあちらの方にあったと思う、と言われた方向は、窓の数が少なく、いっそう奥まった場所であった。申し訳程度に設けられた明り取りから、淡く頼りない光がぼんやりと漏れ出ている。さまざまな物に袖を引っかけぬよう、慎重に歩を進めてしばらく。淡い光の下に、ふと、何かが置いてあることに気が付いた。棚の間の通路の、突き当たりである。

2024.04.10(水)