「そんなことはございません!」
家柄を考えれば、実際、四人は同等である。
「現に白珠さまを擁する北家は、今回も本気で入内を狙って来ています。北家は、今まで入内してきた人数は少ないとは言え、山内において最大の武力を誇る家柄です。ここで白珠さまが入内したとあれば、政での勢力図そのものをひっくり返す事態になるに違いありません!」
それは返せば、桜の君に選ばれるということが、それほどに重要な意味を持つということだ。あせびが入内した暁には、東家だって絶大な力を持つことは間違いない。あせびが小さくなる必要は全く無く、むしろ家のことを考えれば、積極的に入内を狙っていくべきなのだ、とうこぎは力説した。
「今まで、南家、西家がでしゃばり過ぎていたのです。東家の姫君が入内しかけたことは何度もあったのに、そのたびに、あくどい手で邪魔をして……!」
ぎりぎりという、歯ぎしりの音まで聞こえてきそうなうこぎの様子に、あせびは少々青ざめた。こんなうこぎを見るのは、こっそり一人で花見に出かけた時以来である。
うこぎは鼻息荒く、思わず後退ったあせびの方へと詰め寄って来た。
「とにかく! うこぎは僭越ながら、あせびの君さまには多大なる期待を寄せております。東領にて念願の入内なるかと息を凝らして見守っている者は、決して少なくございません」
はあ、と気のない返事をして、あせびはうこぎから離れようとした。それに気が付いているのかいないのか、うこぎはあせびの両肩を勢いよくわしづかみにし、ぐっと顔を寄せた。
「ご心配にはおよびません! うこぎが、全力であなたさまをお守りいたします。姫さまなら、絶対に若宮さまのご寵愛を勝ち取れます!」
守ってくれるのはいいのだが、と、あせびは心の中だけで呟いた。その前に、そう言ううこぎ本人に殺されそうだ。
さっきから、肩が痛いのである。
翌朝。
昨夜は疲れているということで早めに床についたのだが、興奮していたためか中々寝付けなかった。あせびは眠い目をこすりながらのろのろと起きだし、朝っぱらからうこぎに𠮟られてばかりいた。
2024.04.10(水)