「北家は西家側につきました。結果、若宮は日嗣の御子の座を兄宮さまから勝ち取ったのです。ここで東家も、間違いなく西家につくと思われていたのですが……」
そこまで聞いて、あせびは嫌な予感がした。年代から言って、当時、東家の長を務めていたのは、自分とゆかりある人物である可能性が高い。それも、ものすごく。
「まさか」
「はあ。あせびさまのお父上は、西家にはつきませんでした」
お父さま……。
思わず力の抜けたあせびである。
「なんでそうなさったのかしら」
弱々しい声に覇気のない笑いを返し、うこぎは疲れたように言った。
「どうやら、荒事を避けようとのらりくらりしているうちに、南家に肩入れしているように思われたみたいですね。実際は中立のつもりだったようですが、いつのまにか西家と北家に対抗して南家と東家、という図式が完成してしまったわけです」
浜木綿の言っていた派閥とは、このことだったのだろう。しかし、とどこか苦々しげにうこぎは続けた。
「あくまでお館さまご本人はそんなつもりではない、と主張なさっているので、南家の当主さまの覚えもあまり良くはないのですが……」
またもや、浜木綿の言っていた意味が判ってしまったあせびである。
「だから、東家は腹黒?」
「と、言われておりますね……」
しばし、うこぎとじっと見つめあい、あせびはなんだか泣きたくなった。
「私、もう家に帰りたい」
「弱気にならないで下さいませ!」
何はともあれ、兄宮派と若宮派の実力は拮抗してしまった。この状況を打開する最も有力な手段として、両家が一番に考えたのが、今回の登殿であったのである。次の金烏となる若宮のもとに入内した姫の家が、次代において政権を獲得することは確実だった。
「ふたつの家が、それぞれの家の命運をかけて送り込んだのが、浜木綿さまと真赭の薄さま、ということです」
道理で、とあせびはため息をついた。
「相手にされなくて当然だわ」
二人のあの態度も、話を聞いた後では納得である。たそがれかけたあせびに対し、うこぎはキッとまなじりを吊り上げた。
2024.04.10(水)