あせびは、浜木綿に言われたことで気になっていたことがあった。

「派閥、というのはなんのこと? 浜木綿さまは、私が同じ派閥だから、仲良くしよう、というようなことを言っていたでしょう」

 ああ、とわずかに苦々しげに呟き、うこぎは背後の女房に目配せした。

「それに関しては、これをご覧になりながらの方が、分かりやすいかと」

 女房が開いた巻物は、宗家と四家の血縁関係をまとめた、系譜だった。上から順をたどって見てみれば、南家からの入内が、ことさら多いのがよく分かる。その次が西家だ。東家、北家は、ほんの数えるほどである。

「現金烏陛下の奥さまは、お二人だけです。先ほどお目にかかった大紫の御前がご正室、つまりは赤烏であり、南家のご出身でございます」

 南家。つまりは、浜木綿の家だ。

 系譜の端をぱちりと扇で指し、うこぎはあせびの顔を見た。

「大紫の御前と今上陛下の間には、お子さまがお一人だけおられます。この方が、前日嗣の御子――若宮の兄上さまです。この方こそ、まぎれもなく、宗家直系長子であられます。ここまではお分かりですね?」

 頭の中で人物関係を整理しながら、あせびは何度も頷いた。

「ええ、分かるわ」

「では、もう一人の奥さまのことをご説明しましょう。こちらは、あせびさまもよくご存知の、藤波さまの実の母上でございます。側室ではありましたが、お産みになったお子さまは二人」

「それが藤波さまと、今の若宮さまね?」

「そうです。そして、若宮さまと藤波さまのお母上は、西家の出でございました」

「西家……」

 真赭の薄の家である。

「十年ほど前、兄宮を推す南家一派と、若宮殿下を推す西家一派の間で、政治闘争が起こったのです。四家のうち残り二家も、どちらに味方するかを決めなければなりませんでした」

 長年の南家の横暴に、腹を立てていた者は少なくなかった。それと言うのも、南家は外戚という立場を利用して、天狗との交易権を独占していたことをはじめ、数々の特権をいいようにしていたからである。

2024.04.10(水)