慌ててしどろもどろの返答をしても、白珠の目線はどんどん冷え切っていった。

「仮にも、東領を代表して登殿したのです。もう少し、それなりの意地というものをお持ちになった方がよろしいのではないのですか?」

 そう言い捨てると、白珠もさっさと自分の屋敷に帰ってしまった。彼女に付き従っていた老婆が、非難がましくこちらを睨むのを見て、あせびは、何か自分がやらかしてしまったらしいと悟った。

「姫さま」

 遠慮がちにかけられた声に、がっくりと肩を落としたあせびである。

「うこぎ……なんだか、わけの分からないことばかりなのだけれど」

 情けない顔をしていたのだろう。うこぎは唇を噛んで、なぜか悔しそうな顔になった。

「うこぎが甘うございました。もっとよく、事情をお知らせしておくべきでした」

 ひとまず正装を着替えてからということになり、渡殿を通って春殿へと帰ってきた。正式に鍵を渡されているから、今度は気兼ねなく中に入ることが出来る。

 内装は思っていたよりもこざっぱりとしていて、意外にも、東家の別邸の雰囲気に似ていた。さりげなく置かれた調度品はどれも高級品だが、どこか懐かしさを感じさせる物ばかりである。ただ、本来壁があるべき所が、何故かまるまる一面、枢戸で出来ていた。一つ開いて外を窺えば、開けていて見晴らしが良い。暖かくなった時に開け放せば、さぞかし気持ち良かろうと思った。広い邸内を見回しつつも着替えをすませると、あせびはここに来て初めて、ほっと一息つくことが出来たのだった。円座をあせびの前に持ってきたうこぎは、さて、と、くつろいだ風の主に向かいあった。

「まずは、あせびの君さま。滞りなく登殿を果たされましたこと、まことにおよろこび申し上げます」

「ありがとう――と、簡単に言って良いものなのかしら」

 本当に滞りなく、とは言いがたい。うこぎは深々と頷いた。

「他家の姫君は、すごい剣幕でございましょう? 皆さま、自分こそは、と思っていらっしゃいますからね。いつの代でもこんな感じでございます。お父上さまが仰った、『お友達になる』というのは、正直無理ではないかと思っておりました」

2024.04.10(水)