品物の価値はよく分からないが、うこぎの様子から察するに、相当良いものなのだろう。礼を言おうとしたのだが、真赭の薄といえば、うきうきと嬉しそうなばかりである。
「白珠にも先程渡しましたのよ。でも、わたくし程ではないけれど、あなたも綺麗な髪ですもの。きっとこの衣装は、特別良く映えますわ」
何か言おうと口を開きかけ、なんとなく疲れてしまったあせびである。
「ああ、気にしなくて結構ですのよ。これくらいのものなら、わたくし、掃いて捨てるほど持っていますの。登殿前だというのに、殿方が無理矢理置いていってくだすったのよ。いつものことなのだけれど」
過ぎた美貌も困りものですわ、と眉根を寄せる姿は、なるほど、美しいことは美しいのだが。
「姫さま。そろそろお召替えのお時間です」
「あら、ほんとう」
それでは皆さま、ごめん遊ばせ、と最後に高笑いの余韻を残し、真赭の薄は、浜木綿とはまた違った意味で、嵐のように去って行った。ぽつねんと残されたあせびと白珠は、しばらくの間、きらきらしい一行を言葉も無く見送ったのだった。
「お美しい方だけれど……」
なんというか、強烈だ。
口には出さなかったが、大体は察したらしい。扇からひょこんと覗いた黒目がちな眼が、呆れたような色を浮かべた。
「そんなのんきなことでよろしいのですか」
ぽかんと見つめ返せば、少しだけ怒ったような目と視線がかちあってしまった。
「あたくし達は、若宮殿下の正室には、なりえるはずが無いとお考えなのでしょう。競争相手と思われていないのです」
言われて、今さらながらに衝撃を受けたあせびである。自分はこの三人と、互角に張り合うことが前提でやって来たことになっているのだ。
「忘れていました」
「忘れていました?」
やや高くなった白珠の声に、しまった、とあせびは思った。
「その、私なんて、白珠さまなんかとは比べ物にならないくらいの田舎ものですし――競争相手なんて、とんでもないことです、と、言いたかったのですが」
2024.04.10(水)