「桜花宮において、これより無断での外出、および外部の者を無断で連れ込むなどをした場合、どんなに位の高い姫であっても、厳罰に処されるということをご承知置き下さいませ。男子の入宮は、宗家の男子、および警備にあたる山内衆の者が、大紫の御前、藤波の宮に面会に来た場合のみ、藤花殿に限って許されます。また、外部と連絡を取る場合は、必ず藤花殿を通すこと。どうしても外出が必要な時は、宗家から派遣された女房を使うようにお願い申し上げます」

 滝本は優雅に一礼し、上座の横に下がって行った。その後も儀式はすみやかに行われ、とうとう大紫の御前が、四つの屋敷の鍵を、それぞれの姫君に預ける段になった。

「南の家の姫」

 呼ばれた南家の姫は、はっ、とはきはきとした返事をした。

 颯爽と進み出たさまは、さながら男のように凜々しかった。

 南家の姫は、目鼻立ちのはっきりとした、気の強そうな美女であった。豊満な胸回りと腰つきながら、すらりとした長い手足を持っている。肉感豊かであるものの、どこにも婀娜っぽさを感じさせない女であった。

「南の家当主が一の娘、浜木綿(はまゆう)でございます」

「噂は聞いておる。夏の殿は、かつては妾のものじゃった。良き屋敷ゆえ、頼んだぞ」

「承知しました」

 滝本の配下の女官が、御簾の奥から鍵を受け取り、浜木綿へと差し出した。浜木綿がそれを受け取り、もとの位置に戻ったことを確認してから、今度は西家の姫を呼んだ。

 はい、と応えた声は、どことなく色っぽかった。しゃなりしゃなりと歩きだした姫を横目でとらえた二の姫は、思わず息を吞んだ。

 美しい。これほど美しい女性を、今まで見たことが無いと思った。北家の姫も浜木綿も美人だとは思ったが、これは確実に別格である。

 赤い光沢を持った黒髪はつやつやと波打ち、薔薇色の肌は匂うように艶かしい。一歩一歩歩み寄るその仕草すら、見ているこちらが恐ろしくなる程に華やかだった。みずみずしい唇は、熟れきった甘い果実のようである。

2024.04.10(水)