夏殿と秋殿の姫は、ちょうど本殿の前で向き合うようになり、ほとんど同時に入殿した。しずしずと、夏殿と秋殿、二列になった女房達が、藤花殿へと吞み込まれていく。夏殿の女房の後に続く形となった二の姫が本殿の前に来た時、今度は冬殿の姫と二の姫自身が向かい合わせになった。
そこで初めて、他家の姫を正面から見た二の姫は、小さく目を見開いた。
北家の姫はほっそりと小柄で、そしてとても可愛らしかった。
何べんも梳ったのであろう、一本一本が細い黒髪は、綺麗に切りそろえられている。黒檀の髪に縁取られた顔は小さく、垂れた目尻が愛らしい。
そしてなにより素晴らしかったのは、その肌の色の白さであった。一度も日の光を浴びたことがないかのような、いっそ神々しいまでの色白である。あまりの肌の眩さに、一瞬呆けたようになった二の姫をじっと見つめ、北家の姫はふいと横を向いた。取り残されそうになった二の姫は、慌てて北家の姫の横に並んで入殿した。
信じられない。なんて綺麗な子なのかしら。
どぎまぎと歩きながら、澄ました風の北家の姫を横目で窺う二の姫である。
他の者が着ればそっけなく感じただろう、白を基調にした装束が、まるで彼女の清廉さを表しているようで好ましかった。
そうこうしているうちに、晴れ着姿の一団は本殿の広間へとたどり着いた。広々とした、縦長の板の間である。すでに夏殿、秋殿の一行は両側に分かれて座している。南家、西家の両姫は、女房の向かい合う真ん中で中庭を背にして座っていた。あとは教わった通りに、二の姫は南家の姫の左手につき、北家の姫も西家の姫の右手に腰を落ち着けた。
ぞろぞろと自分達の女房が着席するのを感じながら、二の姫はじっと正面を見据えていた。正面上座の御簾から、しめやかな衣擦れの音がしている。中にいるのは、大紫の御前。それに、幼少のみぎりに親しく育った、藤波の宮である。藤波の声が聞きたいものだ、と期待しながら待っていたが、実際口を開いたのは滝本であり、儀式的な挨拶に、祝辞が続いた。この良き日に、山神の祝福がありますように、と、厳かに結んだ滝本は、そのまま単調な口調になって言った。
2024.04.10(水)