限りなく図星の指摘だった。

「僕がやっている研究のなかで、データを揃えてほしい部分がある。道筋はほとんどできているから、あとは君が実験をこなせば、何とか君の卒論の体裁は整うだろう」

 新たに運ばれてきた上ハラミ肉をトングでロースターの上に並べながら、

「いいのか? そんなやり方で卒論を書いても」

 と俺は多聞の話を中断して、眉間(みけん)にしわを寄せた。

「ウチの研究室は、外部に卒論を公開しないからな。教授がそれでいいと言うなら、ルール違反じゃない。結果のめどはついているが、ちゃんと実験はするし、論文も書く」

「なるほど。で、何だったんだ? 教授のお願いって」

 多聞はロースターの隅に見捨てられていたピーマンを引っくり返し、

「朽木は、野球できるよな?」

 と低い声で訊ねてきた。

「はい?」

「野球だよ、野球」

「まあ、できると言えばできるけど……」

 大学に入学したての頃、学部のクラス対抗野球大会があった。そのとき買った安いグローブがまだ下宿のどこかに眠っているかも――、とあやふやな記憶を口にすると、「十分だ」と多聞は満足そうにピーマンをタレ皿に運んだ。

「何で、急に野球が出てくるんだ?」

 焦げ跡たっぷりのピーマンを「マズい」と顔をしかめながら食べ終えると、

「お前に三万円貸していたよな」

 とまたもや話の矛先を変えてきた。

 ほほう、と思わずおちょぼ口になる俺の前で、多聞は座禅中の坊さんのような凪の表情を浮かべ、「人間、借りた金は忘れるが、貸した金は忘れない」と穏やかに世の真理を説いた。

「あさってだ」

「無理だ。そんな急に用意できない」

「違う。あさってに試合がある」

「試合? 何の?」

「野球に決まってるだろ。お前は俺のチームの一員として試合に出る。まさか、三万円を借りっぱなしで、俺のお願いを断るなんてあり得ないよな」

 ほら、俺は焦げた野菜を食うから、お前はもっと肉を食え。今日は俺の奢りだから――、と多聞は焼けたばかりの上ハラミを一枚、俺のタレ皿に運び、

2024.02.01(木)