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当事者をなぞる作品を世に残してはいけない

――脚本は第1稿から読まれていたんですか?

橋本 そうです。この作品は愛を言葉にしている映画ですけど、第1稿のころはもっと言葉にしていましたね。

――作品は、2019年の新宿ホスト殺人未遂事件から監督がインスピレーションを受けて製作されたそうですね。橋本さんは、元の事件について調べたりされましたか?

橋本 裁判の記録から監督がインスピレーションを受けたと聞いたので、記録はもちろん、ほかにもいろいろ調べました。でも途中で「現実の事件だけを、演じるための材料にしてはいけない」と思ったんです。

 当事者の思いを私はわかった気になってはいけないし、否定してもいけない。当事者をなぞるような作品をこの世に残してはいけないと強く思いました。そういう意味では当事者を守りたかったんです。だから元の事件に重きを置くよりも、記録を読んだ時の監督の気持ちを聞いて沙苗というキャラクターを作っていきました。

――当時の監督の思いはどんなものだったんですか?

橋本 「ここまで人を愛せるのってすごいことだな」と、そして、「彼女の愛がわからないから、撮りたかった」とおっしゃっていました。

 本当にその通りで、最初は私も沙苗の気持ちがわからなかったし、脚本を読んだ時は「愛じゃないものを、愛だと勘違いしているんじゃないか」とさえ思いました。どちらかというと、裁く立場で彼女を見ていたんです。けど、突き詰めて考えるうちに、「こんなに人を愛したことないな」って感じた瞬間がありました。その時に、本当の意味で、沙苗を演じることができたのではないかなと思えました。

2024.01.26(金)
文=ゆきどっぐ
撮影=平松市聖