この記事の連載
- 『空と風と時と 小田和正の世界』より #1
- 『空と風と時と 小田和正の世界』より #2
- 『空と風と時と 小田和正の世界』より #3
- 『空と風と時と 小田和正の世界』より #4
ステージに立つのが苦痛だった
かぐや姫の前座では、いつも観客から早く終われとばかりの、全く歓迎されない反応しかなかった。
「売れなかった時代は、ステージに立つのが苦痛だったからね。かぐや姫の前座をやると、『帰れ』って言われるし、MCやるとお通夜みたいに暗くなる。俺たちも、かぐや姫のファンをとってやろうみたいな野心は全くないし、とれたらいいなあとも思っていない。音楽が受ければいいなという思いだけでやっていた」
家に帰り、母親に「どうだった?」と訊かれるのがなにより辛かった。いつも、「ふつう、ふつう」と言って逃げていた。そしてこうも言う。
「毎日仕事があれば、忙しさのなかで芽生えるものもあったろうけど、それもない。スケジュールはポツンポツンとあるだけ。事務所のスケジュールノートを、どうせ何も書いてないだろうと思っても、つい見ちゃうんだよね。でも、真っ白。いつも真っ白」
前座とはいえ、せめてポスターに名前が出ていれば、とも強く思った。
「ポスターに名前が出ていないのにステージに出ていくというのが、とっても辛かった。プライドがあったから。早くから決まっていた仕事でも、名前がない。要するに、必要とされていないんだ。いつも最初にポスターに名前があるかどうか、見てしまっていたもんな。たまに名前があると『よし』と思って。でも大抵ないんだね。要するに、全然必要とされていないというのが、まさに現実だった」
2023.12.31(日)
著者=追分日出子