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ステージに立つのが苦痛だった

 かぐや姫の前座では、いつも観客から早く終われとばかりの、全く歓迎されない反応しかなかった。

「売れなかった時代は、ステージに立つのが苦痛だったからね。かぐや姫の前座をやると、『帰れ』って言われるし、MCやるとお通夜みたいに暗くなる。俺たちも、かぐや姫のファンをとってやろうみたいな野心は全くないし、とれたらいいなあとも思っていない。音楽が受ければいいなという思いだけでやっていた」

 家に帰り、母親に「どうだった?」と訊かれるのがなにより辛かった。いつも、「ふつう、ふつう」と言って逃げていた。そしてこうも言う。

「毎日仕事があれば、忙しさのなかで芽生えるものもあったろうけど、それもない。スケジュールはポツンポツンとあるだけ。事務所のスケジュールノートを、どうせ何も書いてないだろうと思っても、つい見ちゃうんだよね。でも、真っ白。いつも真っ白」

 前座とはいえ、せめてポスターに名前が出ていれば、とも強く思った。

「ポスターに名前が出ていないのにステージに出ていくというのが、とっても辛かった。プライドがあったから。早くから決まっていた仕事でも、名前がない。要するに、必要とされていないんだ。いつも最初にポスターに名前があるかどうか、見てしまっていたもんな。たまに名前があると『よし』と思って。でも大抵ないんだね。要するに、全然必要とされていないというのが、まさに現実だった」

2023.12.31(日)
著者=追分日出子