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オフコースのためのコンサートの話が

 そして、この時代の自分について、こう言った。

「音楽は死ぬほど好きだけど、何の意味があるんだろうなと。ポツンと大海にひとり浮かんでいる感じだった」

 そんな状況のなか、オフコースのためのコンサートの話が持ち上がったのだ。

 「オフコース・コンサート・イン横浜」が開かれたのは1972年9月13日。すでに小田と鈴木だけになっていた。場所は2人の地元、横浜市教育会館。もっとも520人収容の会場をオフコースの2人だけで埋めるのはとうてい無理。

 杉田二郎をゲストにしても350円のチケットはなかなか売れず、ゲストにかぐや姫とブレッド&バターを追加し、公演3日前にようやく完売した。ちなみにかぐや姫は南こうせつの軽妙なしゃべりなどで人気があったとはいえ、彼らの最大のヒット曲「神田川」はまだこの時点では出ていない。

 そのコンサートの冒頭と最後に歌ったのが、「僕の贈りもの」だった。

 小田がこの歌について語っているのは、当時、詞を書くことが難しく、何かヒントを得ようと、中学生のころからつけていた日記を読み返したという逸話だ。つまり日常のなかから詞を見つけようとしたということだろう。とはいえ、書かれた詞の世界は、当時の時代状況のなかで、かなり異色に感じられる。あまりに優しく、少し現実離れした、ちょっとメルヘンな……あえていえば、それは母が歌う唱歌の世界に、どこか通じているようにも感じられる。

「僕の贈りもの」(作詞、作曲:小田和正)

この歌は僕からあなたへの
贈りものです

空と風と時と 小田和正の世界

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次の話を読む「全体を見れていない俺っていうのも…」鈴木康博オフコース脱退とうらはらだった小田和正の“マイペースさ”

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2023.12.31(日)
著者=追分日出子