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 小田和正の歌は、なぜ私たちの琴線に触れるのか。小田の誕生から2023年の現在までの人生を、小田本人はもとより、親族、友人、元オフコースメンバーや吉田拓郎、作家の川上弘美など、多くの証言から紡いだ物語が『空と風と時と 小田和正の世界』である。

 音楽の神様に導かれ、ストイックなまでに自分の音楽を追求してきた、決して器用とも順調ともいえなかった小田和正の音楽人生の記録の一部を、同書より抜粋して紹介する。(全2回の後編。前編を読む)


 小田最大のヒット曲、「ラブ・ストーリーは突然に」ができたエピソードはよく知られている。

 シングル「Oh!Yeah!」を用意している時に、音楽出版社(フジパシフィック音楽出版)の担当から、その話は舞い込んだ。それは「Oh!Yeah!」のB面に用意していた「FAR EAST CLUB BAND SONG」をフジテレビのドラマ主題歌に提案してもいいかという話だった。

 そのドラマはプロデューサー・大多亮、原作・柴門ふみ、脚本・坂元裕二、演出・永山耕三ほか、主演・鈴木保奈美、織田裕二の「東京ラブストーリー」だった。プロデューサーは「これでもいいけれど」と言いつつ、「ほんとは『Yes-No』と『君が、嘘を、ついた』を合わせたような、8ビートの情熱的な曲がほしかったんだ」と吉田(所属事務所のファーイーストクラブ副社長)に洩らした。それを吉田が小田に伝えたのである。

「それなら、本来の欲しいものに近い曲にしないと失礼なんじゃないかと言ったんだ。ちょうど、そのころ、三連符が繋がっていく曲をつくりたいというアイデアがあって、それなら書き直すよと言ったんだ。当時は、馬力があったんだね。

 三連符が連なっていくのはユニークだし、情熱的な感じがするし、♪たたん♪たたん♪たたん♪とできたけど、これにぴったりくる言葉は探せるかなあと、そこが戦いだった。でも、あの曲は早くできた。ちょうど、『Oh!Yeah!』のレコーディングをしていた最中に作ったんだ」

 それが「ラブ・ストーリーは突然に」だった。この歌は、ギターのカッティング音から始まるイントロも印象的だが、これが出来た経緯も、比較的知られている。レコーディング合宿中にその日の仕事が終わり、皆で部屋飲みしていた時である。小田が「まだイントロに納得していないんだ」と話した。

 小田がソロになって以降、ずっとレコーディングに参加してきたギタリストの佐橋佳幸もやはり、何かが足りないと感じていた。その佐橋がふと、あの印象的なイントロを思いついた。すぐに皆でスタジオに戻り、イントロを変えたのである。佐橋が後年語っている。

2023.12.01(金)
著者=追分日出子