この記事の連載

「昔ながらのそば店である必要はない」僕らにしかできない無農薬野菜×そばの店

 野菜と何かを組み合わせることで、この土地のよさを伝えたい。そんな想いから、地元で生産が盛んな“そば”をつくり始めた高志さん。「そばは県外の方にわかりやすく、地元の方にも馴染みのある食材。それを無農薬野菜とかけあわせたら、ユニークな店ができると思いました」

 一番人気のもりそばは、そばの実の中心だけを使用した“白そば”と、殻まで入れた“黒そば”の2種類がセットになっています。最初はどちらにしようか迷ったという高志さん。しかし、両方とも捨てがたいので、手間を惜しまずどちらもやることを決めたそうです。

「白そばは繊細でするっとしたのど越し、一方で黒そばはコシのある力強い食感。それぞれの違いを楽しみながら食べられるので、最後まで飽きません」(平野)

 またそばつゆが2種類から選べるのもユニークな点です。オープン時から人気の定番「トマトつゆ」は、畑で収穫したトマトに出汁、醤油を加えて作られたもの。

「思ったより酸味は強くなく、トマトの旨みがしっかり利いている感じ。さっぱりと爽やかな風味で、そばとよく合います!」(佐竹さん)

 一方、濃厚なコクを帯びた「クルミつゆ」の誕生にはちょっとした裏話も。「じつはこの辺り一帯は、かつて縄文人が住んでいたと言われているんです。遠い昔、彼らも食べていたであろうクルミを使うことで、この土地ならではのストーリーを含ませるのもおもしろいかなと思い、数年前から新たにクルミつゆも始めました」(高志さん)

 「傍」のもうひとつの名物、ローストビーフ丼も忘れてはいけません。じつはさおりさんのご両親が営むレストランでも学んだ高志さん。ローストビーフのノウハウもバッチリ習得。国産牛にこだわり、下処理から調理加工まですべて自らの手で仕込んでいるそう。わさびとポン酢、隠し味に紫蘇の実の醤油漬けで仕上げたローストビーフ丼はまさに絶品です。

「おかげさまで今年10年目を迎えました。これまでの経験を活かした僕らにしかできないオリジナルティのある食事やサービス、空間を通してお客様に喜んでもらえるよう、これからも頑張っていきたいです」(山崎さん)

「傍 / katawara」

所在地 長野県茅野市泉野5931-100
https://www.applenoodleinc.work/

2023.12.27(水)
文=平野美紀子
撮影=深野未季
スタイリスト=永田哲也