私のその後の人生とはそういうものであり、その副産物がその後に書かれたすべての本たちである。

 だから、『野の医者は笑う』は、私を私にしてくれた本だと思うのだ。

 ああ、おかしい。文章がどうにも堅苦しい。

 この軽躁的で、楽しいはずの本のまえがきが、こんなにも抑うつ的で重たいトーンになってしまうことに愕然とする。

 自分はもう昔みたいに、興奮剤を飲んだブンチョウのような文章を書けない。自由に空転することができない。

 でも、しょうがない。

 この本は、誰もが一度は書けるけど、一生に一回しか書けない類の本だ。

 ここに描かれているのは、愚かな若者が愚かな自分に気がつき、そして世界の広さに打ちのめされる物語だ。

 そう、『野の医者は笑う』は青春物語だということだ。ということはつまり、青春の終わりについての物語だということだ。

野の医者は笑う 心の治療とは何か?

定価 1,000円(税込)
文藝春秋
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2023.10.04(水)