『青春をクビになって』(額賀 澪)
『青春をクビになって』(額賀 澪)

 高校の部活や、大学スポーツなどをテーマに、数々の青春小説を書いてきた額賀澪さんの最新作は、なかなかに衝撃的なタイトルとなった。

「最初は叩き台のつもりで出した仮題だったのですが、担当編集者がこれしかないと激推ししてくれて。やっぱりこれまで青春をテーマにいろいろ書いてきたこともありますし、いま興味があるのが、そういう輝かしい日々を送ったように見える人たちのセカンドキャリアなんです。だから、いったんは青春をクビになる、というイメージが出てきました」

 本作の主人公である朝彦は古事記をテーマとする研究を続けながら、大学で非常勤講師として働いている。しかし、ある時、想定より前に「雇い止め」を告げられてしまう。

「私が主人公として描くことが多いアスリートには、まず肉体的な限界が来るので、年齢的に早い段階で、次をどうするか考えながら競技に臨んでいると思いますが、研究者は、本来ならずっと現役で続けるはず。でも日本のアカデミアは厳しい状況にあります」

 その直後、朝彦の先輩でポスドクの小柳が古事記の版本を盗み出して失踪したことを知る。

「朝彦は30代半ばで、ある意味いちばんえげつないターニングポイントにいます。20代のうちはまだ、仄暗い未来を見通すことも覚悟できないですよね。そこで諦めきれずに、ずるずると今の状況に甘んじると、数年後には致命傷になってしまう。でも30歳を過ぎて、それまでのキャリアにケリをつけた人間がどう生きていくかということを書かなければと」

 かつて同じ研究職だった友人の会社で、朝彦は「レンタルフレンド」として、文学研究者の女性の代わりに保育園の願書提出の行列に並んだり、就職氷河期世代の男性とロックバンドのライブに同行したりする。

 一方で、小柳がどんな思いを抱えていたのか――。朝彦は後輩や教え子たちと向き合いながら、彼らの中に、かつて自分が小柳に向けてきた眼差しを見つけ出す。

「朝彦の選択や、小柳がどうなったかという今作の結末をハッピーエンドと読むかどうかは読者の方にもよると思いますが、私なりに、ひとつの青春の終わりを、どれだけ明るく爽やかに書けるか、ということに挑戦したかったんです。クビになって、というのはとっさの思い付きでしたけど、改めて書き終えたらしっくりくるなと。また新しい青春、人生に再就職する物語になっているとよいなと思います」


ぬかがみお 1990年生まれ。2015年、『屋上のウインドノーツ』(松本清張賞)『ヒトリコ』(小学館文庫小説賞)でデビュー。著書に『風に恋う』『タスキメシ』『転職の魔王様』等。


(「オール讀物」9・10月合併号より)

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2023.09.22(金)
文=「オール讀物」編集部