●今も原動力になっている「とと姉ちゃん」での悔しさ

―― 一方、俳優としての上杉さんは、2015年にドラマ「ホテルコンシェルジュ」でデビューされます。

 このときはベルボーイ役だったんですが、すごくガチガチで緊張していた記憶があります。何やっていいか分からないし、現場の空気も分からないし、余裕がないのに、自分を良く見せたい、何とかしたい気持ちばかりが先行していたように思います。

――16年、NHK朝ドラ「とと姉ちゃん」では、杉咲花さんが演じられた美子の後の夫となる南大昭役を演じられます。

 これまで自分が満足いく芝居ができたことは一つもないんですが、「とと姉ちゃん」は、そのなかでもいちばん悔しかった作品です。この頃はもう25歳ぐらいだったんですが、自分より若くてキャリアがある子たちと同じ現場にいることで、どんどん頭でっかちになっていました。

 さらに、朝ドラということもあって、家族は喜んでくれましたが、「ここで上手くやんなきゃ」ということにとらわれていました。そういう意味では、僕の芝居のキャリアでは早かったのかもしれない、と思っています。

――ご自身の転機になった作品・出来事について教えてください。

 何かを機に方向転換したり、大きく変わったことはないですし、すべての作品の延長線上に、今があると思っています。ただ、「とと姉ちゃん」での悔しさは、今も原動力になっていますし、何らかのモチベーションにもなっています。

 あと、『リバーズ・エッジ』(18年)のような音楽でいえばポップスではない、単館・アート系の作品に、自分の役割がしっかりある役で出演させていただいたことも、大きかったと思います。作品自体が持っている意味と僕が表現したいことが初めてマッチした作品といえるかもしれません。

2023.09.15(金)
文=くれい響
撮影=佐藤亘