結婚や妊娠、ライフイベントで枝分かれしていく30代

──結婚や妊娠などのライフイベントによって枝分かれしていく、20代後半から30代前半の世代感もリアルです。

 そうですね。周りの人の環境も色々と変わってくるので、「もしかして、私はもう大人なのかもしれない」みたいに感じることが、私自身も増えてきました。

──本作は、癌を患った仲間の存在により、死を意識せざるを得なくなる若者たちのドラマでもあります。何事にも“終わり”がありますが、夏帆さんはどのように向き合っていますか?

 いつか終わりが来ることを心に置いているつもりでも、日常的にはつい忘れてしまう瞬間のほうが多いかもしれません。猫を飼っているので、「あれ、今何歳だっけ?」という話の流れで、「もう6歳か!」みたいに、ふとした瞬間に時間の流れを感じたり。

 お仕事的には数ヶ月スパンで始まりと終わりを繰り返すので、クランクアップ間近になるといつもすごく寂しさを感じるんです。終わった後もその現場の空気が自分の中に残っている感じがするんですけど……次の現場に行くと意外とあっさりと、その場がまた自分の日常になっていくんですよね(笑)。いつか終わることの寂しさを思い出したり、忘れたり。その繰り返しのような気がします。

──劇中では、人生でまだ経験したことがないことの多さに気づく場面も描かれます。夏帆さんはいかがですか?

 まだまだ経験したことのないことも、行ったことのない場所もたくさんありますし、そこに焦りみたいなものは感じますね。とにかく私は、行ったことがない場所に行ってみたいとか、知らないことを知りたいという欲求が強いのだと思います。

──そのことに自覚的になったきっかけは?

 20代中盤の頃に仕事でニューヨークに行ったとき、現地に1週間前乗りしたことがあったんです。友達が現地に住む友達を紹介してくれて、いろんな場所に連れて行ってもらい、たくさんの人と出会いました。ニューヨークという街もすごく刺激的だったし、得るものが多かったんですね。

 旅から帰ったら、なんだかすごく心がひらけた気がして。「あ、旅ってすごいんだな」と気づきました。そこから、時間が空いたら旅に出るようになりましたね。

 東京にいるとなかなかの怠け者なので、あまり行動的ではないんですけど、旅先だと「何か新しいことを吸収しよう」と思うからすごく行動的になれるし、有意義な時間を過ごせる気がします。

──確かに、夏帆さんといえば旅好きなイメージがあります。

 今年の前半は割と時間があったので、国内はもちろん、アジア圏にも旅行に行きました。休みのときは常にどこかに行ってましたね。

──フットワークが軽いんですね。

 軽いんですよ、意外と(笑)。休みになったらどこに行けるかなと、最近もずっと考えてます。国内だったら、ふらっと京都に行ったり、一人で旅することもあります。ただ、ガチガチに予定を詰め込むのが苦手で。予定が全部詰まっていると「わー!」とプチパニックになっちゃうので(笑)、その日の気分でやることを決めるのが好きです。

──最近、特に印象的だった旅先は?

 春に台湾に行きました。去年出版した写真集の展示を台湾でやったので、私もついていって設営の手伝いをしたんです。

 現地のギャラリーの子と知り合って一緒に遊んでもらったりもしました。ご飯を食べに行ったり、お家に遊びに行ったり、釣り堀みたいなところでエビ釣りをしたり(笑)。台北にずっといたので、いろんなお店に連れて行ってもらいました。

──前回CREAに登場していただいたときは、人見知りだとおっしゃっていましたが、克服されましたか?

 いや、克服はしていないかもしれないけど、気の持ちようだったりしますよね。人見知りではあるけれど、勇気を出して飛び込んでみようとか、ちょっとしたマインドで行動は変わる。ここ最近で新しく友達になった人とは、やっぱり旅先で出会っていることが多い気がします。

──旅は夏帆さんの性格にも影響を与えているんですね。

 昔は性格的にも内にこもってしまいがちだったんですけど、いい意味でどんどん楽観的に、適当になっている気がします(笑)。

 20代の頃は、普通に生活しているだけで新しい出会いがたくさんあった気がするけど、30代になると割と同じような人たちといることが多くて。

 もちろん、それはそれで落ち着くし、気の置けない友達と遊ぶこともすごく楽しいんです。けど、ずっと同じ場所にいたらずっと変わらない毎日が続いていくような気もして。

 だからこそ、旅に出たくなるのかもしれないですね。

──次に狙っている旅先は?

 ヨーロッパに行きたいですね。ベルリンとか、コペンハーゲンとか……。行けるとしたら冬かなあ。夢が広がります。

『いつぞやは』

かつて一緒に活動していた劇団仲間のところに、一人の男が訪ねてきた。故郷に帰る前に顔を見にやって来たというのだが、淡々と語り出した彼の近況は……。第67回岸田國士戯曲賞受賞で注目度が高まる加藤拓也が紡ぐ緻密な会話劇。

作・演出:加藤拓也
出演:平原テツ、橋本淳、夏帆、今井隆文、豊田エリー、鈴木杏 
※出演予定の窪田正孝さんが怪我のため降板、平原テツさんにキャストを変更し上演。詳細はHPをご確認ください。
【東京公演】2023年8月26日~10月1日 シアタートラム
【大阪公演】10月4日~9日 森ノ宮ピロティホール
https://www.siscompany.com/itsuzoya/

夏帆

1991年6月30日生まれ、東京都出身。2003年にデビュー後は、映画『天然コケッコー』、『箱入り息子の恋』、『海街diary』など話題作に多数出演。近年の主な出演作は、映画『ブルーアワーにぶっ飛ばす』、『Red』、ドラマ『silent』、『モダンラブ・東京〜さまざまな愛の形〜』、『First Love 初恋』、『ブラッシュアップライフ』などがある。

2023.08.25(金)
文=松山 梢
写真=榎本麻美
ヘアメイク=秋鹿裕子
スタイリスト=李靖華