尾上松也さんを中心に尾上右近さんらの若手歌舞伎俳優が顔を揃えた新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』が新橋演舞場で上演中です。人気ゲーム「刀剣乱舞ONLINE」を原案とする舞台は美しくもワクワクする展開で見どころ盛りだくさんとなっています。

 主演の松也さんは、この作品で演出家としても尾上菊之丞さん(日本舞踊尾上流家元)と共に名を連ねており、企画そのものの発案者でもあります。松也さんのインタビューと公演レポートをお届けします。


『赤胴鈴之助』、IMYがもたらしたもの

 歌舞伎だけでなく幅広いジャンルで活躍している松也さん。近年は演者としてだけでなく作品の企画や制作に関わることが増え、それらの活動を通して新作歌舞伎への意欲が高まっていったそうです。大きなきっかけとなったのは、2021年8月に生田斗真さんをゲストに迎えて開催された歌舞伎自主公演「挑むVol.10~完~」でした。そこで新作歌舞伎『赤胴鈴之助』を上演し、亡父・尾上松助さんがかつてテレビドラマで主演した鈴之助を歌舞伎として演じたのです。

「いつか新作歌舞伎を上演したいと思っていた自主公演で、その願いが実現し具体的に物事が進んでいくなかで、『刀剣乱舞』を歌舞伎にしたらどうだろうという思いが芽生え始めました。提案したところありがたいことにOKの返事をいただくことができたのです」

 同じ年の11月には山崎育三郎さん、城田優さんとのプロジェクトIMYによるオリジナル公演『あいまい劇場其の壱 あくと』を開催し、翌年1月には自らの企画で実現したドラマ『まったり!赤胴鈴之助』が放送開始。

「歌舞伎に限らずプロデュース的な立場で作品づくりに関わってみると、さまざまなことが客観的に見えてきて自分の中でビジョンが立ち上がって来ました。いろいろなアイディアが浮かび、演出という分野でも自分を試してみたいという気持ちになりました。ですが初めてのことですし『刀剣乱舞』では主演も勤めるのでひとりでは行き届かないと思い、若い頃からずっとお世話になっており『赤胴』の演出もしてくださった尾上菊之丞さんにお願いしたところ快くお引き受けくださったのです。それが自分にとって大きな一歩でした」

 400年以上の時をかけて発展してきた歌舞伎には多種多様な作品があり、見せ方のアプローチは実にさまざまです。『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』で松也さんが意識したのは、ズバリ! 古典でした。

「それは早い時期から決めていました。『刀剣乱舞』で扱っている時代や刀剣は歌舞伎とリンクする部分が多々あり、和装のキャラクターである刀剣男士には歌舞伎衣裳を参考にしていると思われるものもあってシンパシーを感じました」

 目指したのは「歌舞伎としてありそうなのに実際には見たことのない舞台」。具体的に作品作りを進めていく上で「自由度が高いこと」にも大きな魅力だったそうです。

「きっちり決まったストーリーがないんです。どのキャラクターを登場させなければいけないという縛りもないので自由に考えることができます。自由であるがためにゼロからつくらなければならないたいへんさもありましたけれども」

 スタッフと協議の結果、決まったのは室町時代の“永禄の変”を扱った物語とすること。松也さんは沢山のキャラクターの中から三日月宗近を演じることになりました。永禄の変で暗殺された室町幕府十三代将軍・足利義輝の愛刀だったという説もある刀剣です。

 刀剣男士とは刀剣の付喪神であり、歴史改変を目論む敵である時間遡行軍から本来の歴史を守るべく闘うことを任務とするキャラクターです。

「歌舞伎で馴染みのある刀剣はぜひ登場させたいと思い選んでいきました」

 すでに出演の決まっていたメンバーにどのキャラが合うかを考えた結果、尾上右近さんが小狐丸、中村莟玉さんと上村吉太朗さんが髭切と膝丸の兄弟を、先輩の女方である河合雪之丞さんが妖艶さもある小烏丸を演じることになりました。逆の発想で演じ手の個性にあうキャラを考えて決まったのが中村鷹之資さんの同田貫正国でした。

2023.07.22(土)
文=清水まり