「今でも母性があるかと言われたらわからない」

――実際、妊娠・出産って当事者以外には情報開示されていないことが多いですよね。妊娠初期に15%が流産するという恐怖をロシアンルーレットに喩えた絵は、ショッキングなだけに峰さんの動揺が伝わってきました。流産したらショックで立ち直れなくなるから、お腹の赤ちゃんに愛情を持ちすぎないようにするエピソードも、女性にはわかりみが深いけど、男性には理解されにくい部分ですよね。

 そうなんですよ。妊活してたから、もちろん嬉しいのは嬉しいんだけど、いま喜びすぎちゃいけない! って変な自制心が働いてしまって。妊娠した女性は幸せそうにニコニコしているのが当たり前とされているなかで、こんなふうにロシアンルーレットに喩えるのは不謹慎と思われるのではという懸念もありましたが、むしろ自分も同じように不安だった、と共感してくれる声が多かったのはよかったです。

――女性にとって妊娠出産って、身体的にも大きなリスクがあるし、仕事とかライフスタイル自体が大きく変わってしまうもの。喜びよりも不安や恐怖が優っても当然だと思うんですが、それを公然と口にするのは憚られる空気はまだまだありますよね。

 確かにありますね。私は最初から出産するときは無痛分娩と決めていたんですが、普通分娩で痛い思いをして産んでこそ愛情が芽生えるみたいな風潮はいまだに根強いですよね。産むのは私なのに妊婦の人権って? と思いましたね。あと、「おっぱいが垂れるのが嫌だからミルクにする」と描いたシーンも、完全母乳派の人からは反発を抱かれるかもしれないと思いつつ、意外と反発はなかったので、やっぱりみんなそう思ってたんだ! と思いました(笑)。

――『わが子ちゃん』では、そういう妊娠・出産にまつわるモヤモヤを、美化せず正直に描かれていますよね。出産直後の赤ちゃんとの対面シーンの「臭ッ!!」には、さすが峰なゆか! と爆笑してしまいました。

 赤ちゃんって、なんとなくベビーパウダーの香りに包まれて生まれてくるようなイメージもあるけど、膣が裂けて血まみれのところから生まれてくるんだから、んなわけない! って。そこはリアルに描いておきたかった部分ですね。

2023.07.28(金)
文=井口啓子
撮影=平松市聖