「でも、可愛いんだよね」を付けがち

――それはすごい。「おっぱいがないから無理!」みたいに逃げちゃう男性も少なくないのに。チャラヒゲさんは幼稚園の先生という職業柄もあるのかもしれませんが、そこまで育児を自分事として考えられるようになった背景が気になります。

 チャラヒゲの家は、どちらかといえば保守的なんですが、だからじゃないかな。亭主関白な父親も、それに服従している母親も嫌だという、完全な反面教師みたいです。

――峰さんは産後の肥立ちが悪くてほぼ寝たきりだったこともあり、ワンオペで家事育児をこなしていたチャラヒゲさんが、まさかの育児ノイローゼになるくだりも興味深いです。育児ノイローゼは女性ホルモンの問題なんかじゃなく、24時間ブラックで働いてるからだと。わが子ちゃんが可愛いと思えないときがあるというチャラひげさんに峰さんが言う「そんなの当たり前じゃん!」という言葉に、救われた人は多いはずです。

 ワンオペって、やってみないとなかなか大変さがわからない。私もチャラヒゲの代わりに丸一日ひとりでわが子ちゃんの面倒を見たことがあって、その日はチャラヒゲがいろいろ用意していってくれたおかげもあって、なあんだ、大したことないじゃんって感じだったんです。でも、それが積もり積もってくるとどんどんゲソゲソになってくるってことをチャラヒゲを見て知ったので、ワンオペをさせてる人は一日ひとりで面倒を見たから育児楽勝とか考えないで欲しいし、ワンオペをしてる人はしんどいって口に出した方がいいですよね。

 でも、みんなみんな愚痴を言いつつも、最後に「でも、可愛いんだよね」を付けがちなんですよ。それで自分の気持ちに蓋をして、我慢しちゃってる。だから、私はそれを付けるのもうやめようよ!  しんどいことはしんどいとちゃんと言っていこうよ!と言いたいですね。
 
 あと、男性は育休を取ったら、その間は夫婦交代とかではなく、ワンオペ育児をしてみてほしい。私、夫が多く稼いでるんだから妻がそのぶん家事育児しろみたいな考えが本当に疑問で。妻は専業主婦でベビーシッターも常時頼めるぐらい稼いでるんだったらまだしも、ちょっとの収入の差でそんなこと言うなんて、なんて下品なんだろうと思いますね。

――そういう誰もがモヤってるけど、なかなか言えない本音をスパーンと言ってしまうスタンスは『アラサーちゃん』から一貫してますね。それは峰さんの性格によるものが大きい? それとも使命感? 

 単純に性格ですね。言わずにいられないんですよ。ただ、描くことによって、それが世間の常識になっていったりする。たとえば、『アラサーちゃん』で「ドドメ色のネイルは男受けが悪い」という人に「いや、別に自分のためにネイルしてるんだからいいじゃん」というエピソードがあって。それが女性にウケたってことは、当時はまだまだ女性の中にもモテを意識しないといけないみたいな概念があったからなんですよね。でも、最近は自分が好きだったら良くね? というのが当たり前になってきてる。そうやって常識が変わっていく様子を見ていると、使命感ではないけど、描いてよかったなと思っています。

2023.07.28(金)
文=井口啓子
撮影=平松市聖