この記事の連載

 CREA夏号の特集「母って何?」では、さまざまな立場の人たちに「母」や「親」になること、ならないことについて語ってもらっています。

 40代、双子の父である文筆家、清田隆之さんがいま考える、「母」とは?


母という役割は負うものが多すぎる

写真はイメージです。photograph=AFLO
写真はイメージです。photograph=AFLO

 大学時代から「桃山商事」というユニットの代表としてさまざまな人の恋愛相談に耳を傾ける活動を続けていて、その流れでジェンダーや毒親の問題を知り、母親というものに対する理解が少しだけ深まったような気がします。

 というのも、僕の母がまさに過干渉で、僕を中高一貫のいわゆる“お坊ちゃま学校”に入れるための圧がすごかったんです。サッカー少年だったのに突然進学塾に通わされ、テレビはダメ、マンガはすべて捨てられ、着せられるのは特定のブランドの服ばかり。いつキレるかわかんないし、母の機嫌を見ては隣の薬局に逃げ込みました(笑)。

 子どもに干渉しちゃうのは、見栄や理想もあると思いますが、母親が一手に子育ての責任を背負わされている現実が背景にあることを知り、自分の母もそうだったのかもなって。うちには3歳半の双子がいますが、母子手帳を受け取ったとき、妻だけが「命の責任者はあなたです」と任命されているように映った。同じ親でも、安易に理解した気になってはいけないほどのプレッシャーがあるのではないか……。

 最近は子育ての悩みを聞く機会も増えましたが、共働きで同じようにフルタイム労働しているのに、家事育児をほぼ女性が担っているケースが本当に多い。背景には旧来的な性別役割意識や社会制度の不備が関係していますよね。「働いて税金を納めてね」「家事育児も担ってね」「女性としても輝いてね」というのが男性優位なこの社会の本音で、キャパシティ無視で「母」という役割にいろんなものを背負わせている現実があるように思えてなりません。

 子どもたちの価値観形成には親の影響が大きいので、できるだけフラットかつ多様な関わり方ができたらなって。我々が「しおちゃん」「代表」と呼び合っているため双子たちからもそう呼ばれるのですが、家の中に「ママ」「パパ」という言葉が存在しない現状はちょっとお気に入りかも(笑)。役割ではなく、お互いが個として関わっていきたいという想いで暮らしています。(談)

●清田さんの著書

『おしゃべりから始める 私たちのジェンダー入門』

コロナ禍の2年間に共同通信で連載していたエッセイを書籍化。ジェンダー、子育て、メディアなど、多岐にわたる話題を扱いながら日々のモヤモヤを言語化していく。

2023年6月発売。朝日出版社 1,925円
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

清田隆之(きよた・たかゆき)さん
文筆家

1980年、東京生まれ。恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。恋愛とジェンダーをテーマにコラム等で発信。著書に『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)など。

次の話を読む「あ。お母さんって、私のことか!?」夏生さえりさんが考える「母って何?」

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「母って何?」
あの人の回答は?

2023.06.24(土)
Text=Ritsuko Oshima(Giraffe)
photograph=AFLO

CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

母って何?

CREA 2023年夏号

母って何?

定価950円

CREAで10年ぶりの「母」特集。女性たちにとって「母になる」ことがもはや当たり前の選択肢ではなくなった日本の社会状況。政府が少子化対策を謳う一方で、なぜ出生数は減る一方なのか? この10年間で女性たちの意識、社会はどう変わったのか? 「母」となった女性、「母」とならなかった女性がいま考えることは? 徹底的に「母」について考えた一冊です。イモトアヤコさん、コムアイさん、pecoさんなど話題の方たちも登場。