この記事の連載

舞台ではその場で引き出された感情を引き出したい

――真彩さんの歌に観客が惹きつけられるのは、その歌を通じてキャラクターの感情や心情が伝わるからだと思っています。これまでさまざまな役を演じられてきましたが、ご自身なりの役づくりのセオリーのようなものはありますか?

 自分では役作りもですし、セリフもいつ覚えているんだろうという感じです。役づくりって、正解というものがないじゃないですか。だから結局いつもお客様にお見せする直前まで、ああしようか、こうするほうがいいのかもって考えてますね。

 そんな状態ですから、自分の中にセオリーというものがあまりないような気がします。台本であったり、歌のメロディーの運び方、音域から受ける”役の印象”や演出の方からのアドバイスを一旦自分の中に入れつつ、共演の方とのお芝居の中で引き出される感情をその場でホイッて出していっているような気がします。

 すごく頭の中で考えてはいるけれども、考えたものを出さないっていう感じですね。でも、頭ん中でこっちの方向性なんじゃないかなっていうことは、考えているんですよ、ずっと。でも、いざその場になったときには、なにも考えず、その場で相手から受けたものを出すだけ、という感じです。

――事前に考えるけれど、現場に入ったら柔軟なんですね。

 それは宝塚在団中に身につけた術だと思います。宝塚のいわゆる名作と言われる作品はとくに、ファンの方それぞれの中にその役に対する正解や理想というのがある場合もあります。そのため、その方の思っていたものとは違う歌い方や演技プランに対して批判的な意見が耳に入ることもありました。

 でもある日、それを気にしていたらやっていけないなと思ったタイミングがあって。その人の中での「この役はこうだ」というものは、その人の価値観であって、自分が思っていることも、私の価値観でしかなくて、また別の人からしたらどちらも違っているって言うかもしれない。そう思ったら、どんな方向でもその役としての芯がはっきりあればありなのではないかという考えに辿り着いたんですよね。

 例えば、演出家の方から「こう演じてほしい」と言われた場合は、なぜそうなるのかという疑問を自分の中で咀嚼する時間が必要なため、数日猶予をいただくことも多々あります。言われたものを形だけ提示することはできるかもしれない。でも、そこでOKをもらえても、自分の頭と心がついてこないと結局は意味のないものでしかないと思っているのでじっくり役と向き合いますね。

――ご自分の中できちんと気持ちの流れを通さないと、演じられない。

 そうなんです。機械的に歌を覚えたり、セリフ覚えることが全くできなくて(笑)。役が入ってないのに無理に表現しようとすると、気持ちが追いくまでは全然動けないしセリフも出てこない、途中で気持ちが悪くなってストップしちゃうくらい。でも不思議なことに、気持ちが繋がると昨日まで出てこなかった歌詞やセリフがすんなり出てくる瞬間があるんですよね。

――でも、真彩さんの場合、たとえば宝塚退団公演の『fff ーフォルティッシッシモー』のような、人ではない役柄も演じられています。そういう役の場合も同じですか?

 たしかに“概念”を演じること、多かったですからね(笑)。でも、概念といっても、感情はあるんですよね。負の感情であったりとか、憎しみであったりとか。これまで演じた宝石ちゃん(※同じ退団公演のショー『シルクロード~盗賊と宝石~』では宝石を演じている)にだって、宝石としての感情はあると思って表現しています。音楽や振り付け、演出をいただいて、自然に自分の中から生まれてくる喜びであったりとか、苦しみであったりとか…。それをそのまま出していたように思います。

【インタビュー後篇】真彩希帆 “宝塚の娘役”からの脱却「役者として何でも演じられるべき」を読む

ミュージカル『ファントム』

【大阪公演】
期間:2023年7月22日(土)~8月6日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール
<公演に関する問い合わせ>
梅田芸術劇場:06-6377-3800(10:00~18:00)

【東京公演】
期間:2023年8月14日(月)~9月10日(日)
会場:東京国際フォーラム ホールC
<公演に関する問い合わせ>
キョードー東京:0570-550-799(平日 11:00~18:00、土・日曜・祝日 10:00~18:00)

公式サイト https://www.umegei.com/phantom2023/
公式Twitter @Phantom_JP2023

真彩希帆(まあや・きほ)

7月7日生まれ、埼玉県出身。2012年、宝塚歌劇団に入団、2017年雪組トップ娘役に就任。確かな歌唱力と繊細な演技力で、往年の名作からコメディ作品まで幅広く役をこなす。2021年4月をもって歌劇団を退団後は、舞台「ドン・ジュアン」「笑う男」「流星の音色」「ジキル&ハイド」等、話題作でのヒロイン役に於いて、ミュージカル女優として着実な活躍をみせている。今夏「ファントム」今秋は小池修一郎作・演出「LUPIN~カリオストロ伯爵夫人の秘密~」への出演を控える。

次の話を読む真彩希帆 “宝塚の娘役”からの脱却 「役者として何でも演じられるべき」 ジキル&ハイド、ファントムへの挑戦

2023.07.21(金)
文=CREA編集部
撮影=深野未季