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 愛らしさを含んだ透明感のある歌声。その響きは曇りのない美しさで、聴く人の心に力強く真っ直ぐに届く。オペラ座に棲むファントムことエリックが、一瞬で魅了された“天使の歌声”とは、まさに彼女のような歌声を言うのではないかと思わされる。

 宝塚歌劇団雪組トップ娘役として、その抜群の歌唱力で高い人気を誇り、退団後は『笑う男』や『ジキル&ハイド』など数々のミュージカルで活躍する真彩希帆さんが、宝羅塚時代に演じた『ファントム』のヒロイン・クリスティーヌに再び挑む。

【インタビュー後篇】真彩希帆 “宝塚の娘役”からの脱却「役者として何でも演じられるべき」はこちらから


エリックの母親ベラドーヴァを演じられるのも、挑戦する理由の一つ

――宝塚時代にも経験されたミュージカル『ファントム』のクリスティーヌ役を、退団して再び演じられるのは、どんなお気持ちなんでしょう。

 まさか退団して、再び『ファントム』という作品に関わるとは思っていませんでした。ましてや自分がクリスティーヌ役をもう一回演じるという選択をするとも思ってなかったです(笑)

 でも、再び演じるからにはより深く丁寧に。当時はトライできなかったことにも挑戦してみたいと考えています。

――本来は、一度演じた役よりも、どんどん新しいものに挑戦していきたいということなんでしょうか?

 出演する作品については、その時の自分の気持ち次第、というところが大きいような気がするので、どちらとも言えないかな。挑戦したいものと向き合うという感覚です!

――ならば、今回の出演をお決めになられたのは、どんな理由からですか?

 私はクリスティーヌという役を心から愛しています。音楽の神様に愛され、そして愛する気持ちを歌を通して伝えられる役だと思っていて…それは、エリックという役も含めてですね。

 私は、歌と踊りとお芝居によって作られるミュージカルが大好きなのですが、そのなかでもとくに歌が好き。

 ミュージカルの歌といってもいろいろなものがあります。その中でも、お芝居で役として歌う喜びを表現できる『ファントム』という作品は、私にとって特別で。その感覚を再び経験できるのは、本当に幸せなことだと思っています。

 また、クリスティーヌを自分が演じられるのは今回が最後だろうなということ。そして今回の『ファントム』では、クリスティーヌだけでなく、ベラドーヴァというエリックの母親役も演じられると伺ったことも、やりたいと思った理由の一つです。

 あとは、私が雪組で演じたときの舞台を見ていらした方、映像や実況CDで私のクリスティーヌを知ってくださった方々から、「真彩さんのクリスティーヌが大好きなので、またもしクリスティーヌをやることがあったら絶対に見に行きたいです」というお手紙やメッセージをいただくことが、想像以上に多かったんですよね。

 『ファントム』という作品が、それだけ多くの方に愛されているということに感動し、クリスティーヌをまた見たいと言ってくださる方のためにも、数年前の自分とは違うかもしれないけれどやってみよう!と思いお受けしました。

――主人公エリックの母、べラドーヴァをやりたいと思われたのはなぜですか?

 べラドーヴァは、エリックに最初に愛を伝える存在で、クリスティーヌとはまた違う視点でエリックと関わる役です。彼は母親とクリスティーヌを重ねて見ている部分があり、べラドーヴァを演じることで、より作品自体やクリスティーヌという役への理解も深まる気がしています。

 また、べラドーヴァの場面に関しては、踊りがメインになると伺っています。声を使った表現だけでなく、身体での表現という、双方からアプローチできるのも楽しみです。

2023.07.21(金)
文=CREA編集部
撮影=深野未季