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自宅で同じような衣装を着て、何度も何度も練習して。

──現場の状況を見ながらご自身のアレンジを加えていくほうが、大変そうに思えますが……。

遠藤 それが、逆なんですよ。ある程度自由にできる役は経験でなんとか対応できるんだけど、一語一句脚本のセリフを壊しちゃいけない役を演じるのって、実はめちゃくちゃ大変なんです。

 最近出演した刑事ドラマで、まさにそういう役があったんですけど、一番苦手な設定だったので、トラウマになる寸前までNGを出してしまいました。動きながら事件の説明をするシーンが何回やってもできなくてね……。自宅で同じような衣装を着て、女房におかしくなったんじゃないかと心配されるくらい何度も何度も練習して。それでもできなくて、久々に役者の原点に返ったような気がしました。年末にオンエアになるテレビドラマなので、「ああ、この役だな」と思って見ていただけたら報われます(笑)。

──強面のキャラクターから、医者、刑事、ふつうのお父さんまで、本当に多様な役柄を演じておられますよね。遠藤さんにできない役はなさそうに思えますが、バラエティ番組で「弁護士はNG」だとおっしゃったのが話題になっていました。

遠藤 あれね……。基本的に役柄にNGはないので、なんでも勉強だと思ってやらせてもらっているんですけど、マネージャーの女房に怒られたので、ここで撤回しておきます。弁護士役もやります。あ、でも、条件つきですけど……(笑)。

──条件つき……(笑)。どんな条件ですか? 

遠藤 何度も言いますけど、俺、本当にセリフの覚えがめちゃくちゃ悪いので、弁護士のように専門用語で説明をたくさんしなくてはいけない、しかもセリフが多そうな役は、とても務まらないと思うんです。だから「できません」って言ったんですけど、もし弁護士事務所のCMとか、セリフがなくて、ただポーズや表情だけでOKの弁護士役だったら、喜んでお受けしますので、是非お声をかけてください(笑)。

──弁護士ではありませんが、「いいお父さん」を演じることも最初は抵抗があったとか。

遠藤 そうなんですよ。強面で危険な感じの役柄ばかりやらせてもらっていたので、最初に人情味あふれる父親役のオファーが来たときは戸惑いました。

 転機になったのは、2009年のフジテレビ『白い春』(関西テレビ制作)という連続ドラマです。大橋のぞみちゃんの義父役で、阿部寛さんが実の父親役という設定だったんですけど、俺が演じた村上康史というパン屋のおやじが、とにかくいいお父さんだったんですよ。

 それまでは悪役か、クセの強いキャラクターしか演じたことがなかったので、台本をもらったときプロデューサーに「で、この人、何話から悪い人になるんですか?」って聞いたんですよ。そしたら、「いや、ずっといい人ですから」と返ってきて。本当に最後まで「いい人」で終わって、かなり衝撃的でした。

2023.07.19(水)
文=相澤洋美
撮影=志水 隆