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 強面の刑事から、エリート医師、家族思いのお父さん、コミカルなキャラクターまで、あらゆる役柄を自然体で演じてしまう遠藤憲一さん。不器用な分、人一倍努力してきたという遠藤さんのこれまでをお聞きしました。

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──遠藤さんが俳優を目指したきっかけを教えてください。昔から人前に出たり、何か表現したりするのがお好きだったんですか?

遠藤 いや、そういうタイプではありませんでした。むしろ人前に出るのは苦手で……。ただ、ものをつくり出すことは好きでした。勉強は嫌いで全然できなかったけど、美術だけは唯一好きで、白い画用紙に自由に描けと言われると、テストなのに楽しく描ける。そんな記憶があります。

──俳優になったのは、電車の中吊りで「タレント募集」の告知を見て応募したのがきっかけだそうですね。

遠藤 そうなんですよ。たまたま広告を見て、面白そうだと思って養成所に入りました。

 それでね、大嫌いだった勉強が好きになっちゃったんです。養成所のある劇団に8ミリで映画を撮ったり油絵を描いたりしている多彩な人がいて、その先輩の影響で、本を読んだり、クラシック音楽を聴いたり、油絵を描いたり、「人間」を身体全体で表現することの面白さに目覚めちゃったんですよね。俳優としてプラスαになりそうな「勉強」の面白さに気がついたというか。

 こんなに何かに熱中したのは、小学生の時にやっていた野球以来だったので、大げさかもしれないけど、俳優になることは、生まれたときから決まっていたような気すらして。勉強も何もできない自分が唯一できる「俳優」という職業に出合えたのはきっと運命だ。だから、もうこの道で生きていくしかない、と思うようになりました。

──実際にご自分が「俳優」としてやっていけると思ったのは、いつ頃ですか?

遠藤 20歳の時に仲代達矢さんが主宰する「無名塾」に合格した時です。800人くらいの中の5人に選んでいただいて、あれは自信になりました。といっても、10日くらいで辞めちゃったんですけどね。

2023.07.19(水)
文=相澤洋美
撮影=志水 隆