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「一番大切なのは、最初にやりたかったことを見失わないこと」

――企画を立てて通す職業の人間として非常に身に染みます。同時に、「イッテQ!」をはじめ松本さんが関わってこられた番組がいずれも老若男女幅広い層から支持される理由の一端を見た気がしました。

 うーん、そう言っていただけるのはありがたいんですが、どれも最初から見てもらえたわけじゃなかったんですよ(苦笑)。「イッテQ!」も裏番組が強力で苦戦してましたし、「青空レストラン」も「笑神様」も初期からバーンといったわけじゃないですから。入社してから、一体いくつの番組を始めては終わらせたことか……。

――逆にいえば、数多の番組が終わっていく中で、最初は低空飛行だったものが長く続く人気番組に育ったのはなぜだと考えられますか?

 そこは、スタッフの中でよく話していたことが2つあって。ひとつはさきほど話した食の番組での経験からですね。視聴率が思うように上がらなくて、スタッフみんなで「こんなにおいしそうなものを出して面白いこともやってるのに、何がダメなんだろう?」と話し合った時に、「あれ? 最初の企画書と違う番組になってない?」と気づいたんです。

 制作陣としては毎週担当できる枠がもらえて嬉しいじゃないですか。だからのめりこんでやりたいことを詰め込んでしまって、「ゲームに勝った人だけが料理を食べられます」とか要素をいろいろプラスしていった時期で、私たちがいつも食べている身近な食材を生産者の方はどう大切に育てているのか、生産者だからこそわかる一番美味しい食べ方は何なのか、それを丁寧に描くコンセプトだったはずなのに、雑味がどんどん入ってきていた。それに気づいて、もともと視聴者の方に何を見てもらいたかったのか、根幹に立ち戻った内容にしたら視聴率が伸びたんです。以来、浮き足立ちそうなときは企画書に戻って、最初に何をやろうと思っていたかを見失わないようにしています。

――めちゃくちゃ勉強になる話です。

 もうひとつは、制作者と出演者の両方が「面白い」と思っていないと視聴者にも「面白い」と思ってもらえないんじゃないか、ということです。「この番組に賭けたい」と熱を持っている人がどれだけ集まるかがすごく重要なんだと思います。「イッテQ!」はまさにそうでした。宮川大輔さんが「お祭り男」になると社内に報告した時に、最初「大助・花子師匠が出るの?」って言われたんですよ(笑)。それくらい東京ではまだまだ一般層への知名度が低かったところから大輔さんがめちゃくちゃ頑張ってくれた。イモトアヤコさんも、無名の大学生芸人だった時に「珍獣ハンター」のオーディションに受かって「ここで頑張りたい」とメンバーに入ってきました。

 総合演出を始めとしてメインスタッフのほとんどが20代後半~30代だったんです。その頃、日本テレビの日曜8時枠がちょっと低迷していて「こうなったら若手にゴールデンやらせてみるか」ってことで任せてもらえたチームでした。制作陣も出演者も「ここから頑張ろうぜ」と切磋琢磨しているのを、内村(光良)さんというMCがドンと構えて見てくれるし、率先して自分も汗をかいてくれる。みなさんがそれぞれ今結果を出しているから言えることかもしれないですけど、そういう熱量って大事な気がします。

――2015年には念願叶ってドラマに異動されましたが、それまで異動の希望は出していなかったんですか?

 毎年フワッと「バラエティやりながらドラマもやれる道を探りたいです」みたいなことを上司や人事にむけて書き続けていました。ただ40歳が見えてきて「ここでいかなかったら多分一生いけないな」と思って、その年は初めてはっきりと希望を出しましたね。「イッテQ!」が日曜8時で始まって8年たって軌道にも乗って、おこがましい言い方ですが「今ならわがまま言ってもいいのかな」と思えたこともありました。最終的に、当時担当していた番組のスタッフ・出演者のみなさんから暖かくドラマに送り出してもらって本当に感謝しています。

  実は「イッテQ!」がゴールデンに行くタイミングで、偶然にも提出していた連続ドラマの企画も通っていたんですよ。

――えっ。そもそも部署の垣根を超えて、企画は出せるんですか?

 いや、当時はそういう募集はなくて。バラエティの企画募集に、ドラマの企画書をずっと出し続けてたんです。誰か見てくれるかなと思って勝手に。ただ、「笑ってコラえて!」ですごくお世話になった方が異動で編成部の企画担当になって、「なんか松本がドラマの企画書出してきてるぞ」と目にとめてドラマ班の人に渡してくれたんですね。それがラッキーにも通って、もしかしたら今ならドラマに行けるかもしれないなと思いました。  

 でも悩んだ結果、その時は「イッテQ!」でプロデューサーをやることの方を選びました。みんなで「ゴールデンにいくぞ!」となっているときで、自分自身もここは頑張らなきゃいけないし、頑張りたいと思って。「イッテQ!」が大好きだったからこの選択は後悔しないと思えましたしね。

――そうだったんですね。宛先もわからない企画を考え続けられるのがすごいです。

 自分の中に「ドラマをやりたい」って気持ちがある限りは、企画を考えることだけは絶対続けようと思ってました。ただそれだけなので、別にすごくはないんです。今考えればバラエティの企画募集にドラマの企画をひたすら出すなんて謎の遠回りだし、もっとうまいやりようがあったと思います(笑)。

2023.07.31(月)
文=斎藤 岬
写真=深野未季