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「14歳の頃から、自分の手で映像化したい小説がある」

――松本さんに今回伺いたかったことのひとつが、バラエティはプロデューサーをはじめ著名な制作者がほとんど男性であるのに対してドラマは女性も多い構造についてです。外側からはそう見えるのですが、両方の現場を知る方としてどう思われますか?

 難しい質問ですね……まず、さっきお話した通り今と違ってかつては採用人数から男女でかなり違いましたし、制作に居続ける人となるともっと少ないというのはあったと思います。多分、総合演出やプロデューサーとして今メディアによく出ている方たちがちょうどその頃の世代なんじゃないでしょうか。だから男性が多くなっているのかなと。

 ただ、やっぱり働き方として女性に優しくない時期はあったと思います。最前線で働いていたけれど結婚や出産のタイミングで「セーブします」って制作現場を離れる人が、昔は結構いたと思うんですよね。自分から希望した形ではあるけれど、もし両立できる働き方を支援する制度があれば続けていた人もいたのかもしれません。

――今は各局採用人数の男女比はほぼ半々になっているそうですね。

 そうですね。制作の現場も女性がすごく多くなりました。バラエティの演出もドラマの監督も、女性が増えています。数の差はこれからどんどん埋まっていくでしょうね。

 それと、もうひとつ要素としてあったのは私が入社した頃は、バラエティでは男の人たちが好む笑いをスタンダードとする空気が残っていたと思います。出ている芸人さんも観ている人も男性が大半だった。対してドラマを観るのは女性が多かったので、制作側でも女性がより自信を持ってドラマの企画を出せるような部分はあったのかもしれません。

 でもそれも変わってきてますよね。この10年くらいで視聴者の好みの違いも、男女によらない部分のほうが大きくなっている感覚があります。だから今は本当に過渡期で、あと2~3年もしたらいろんなことがガラッと変わるかなと思っています。

――松本さんの活躍も後進に影響を与えていると思います。ちなみに、ご自身はテレビの作り手の女性で刺激を受けている方はいらっしゃいますか?

 それでいうと、私がドラマにいくことを諦めずにいようと思うきっかけになったのはTBSの磯山 晶さんなんです。こちらが勝手に思っているだけなんですが。

――代表作を挙げるまでもない超ヒットメーカーですね。

 以前、磯山さんが「プロデューサーになりたい」(講談社/1995〜97年、初刊は小泉すみれ名義)という漫画を連載されていたんですよ。テレビドラマをつくりたい主人公が、プロデューサーを目指して奮闘するという内容で、磯山さんの実体験がベースなんです。

 ペンネームで描かれていたし、TBSの方の作品だとは知らずに書店で手に取って読んで、自分の状況と似てると思いました。作者さんは希望が叶ってドラマに行って頑張っていて、しかもテレビ局員でありながらそれを漫画にして連載もしていて「こんな人がいるんだ、すごい!」って。バイブルのように読んでましたね。

 磯山さんはその後もちろんプロデューサーになられて面白い作品をたくさん作られて、今年はNetflixで「離婚しようよ」をやってらっしゃるじゃないですか。あのときすごいと思った方が今もずっとチャレンジし続けてるんだから、私も頑張らないとな、と思わせてもらってます。

――2022年に久しぶりにバラエティの制作に戻られて、そしてこの6月からはまたドラマに異動されたそうですね。

 そうなんです、バラエティとドラマを行ったり来たりで。ドラマは企画を考えてからオンエアまで1年ぐらいはかかるので、またいちから始めることになります。私、14歳の頃からどうしても映像化したい小説があるんですよ。これをぜひ実現したくって。今までの経験からたとえ年月はかかっても強く思い続ければ叶うんじゃないかな、と思っています。

松本京子(まつもと・きょうこ)

1998年に日本テレビ放送網に入社。コンテンツ制作局チーフプロデューサー兼コンテンツ戦略本部グローバルビジネス局スタジオセンター。「世界の果てまでイッテQ!」など多くのバラエティの人気番組を手掛けたのち、ドラマ制作部門に異動し「掟上今日子の備忘録」「獣になれない私たち」などをプロデュース。その後もバラエティとドラマを行ったり来たりしながら現在は10月スタートの連続ドラマを準備中。

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Column

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配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。

2023.07.31(月)
文=斎藤 岬
写真=深野未季