手脚は長く頭も小さい。まるでモデルのような彼が歩く姿は、他の一年生とはまるで違って見えていた。一瞬、マモルは普通科の生徒が遊びに来たのかと思ってしまった。だが、バッグの大きさを考えると、そうではない気もする。
梓は画面から目を離さずに言った。
「彼も入寮生?」
「……多分」
「誰だろうな」
テーブルを回り込んで画面を確かめたナオキが首を傾げると、ユウキがばちんと指を鳴らす。
「安永じゃがなあ」
「えっ! 孟子くん?」とマモル。
ユウキの言うことが本当なら、この少年はマモルの部屋に入ってくることになる。
画面をじっと見つめたナオキがうなずいた。
「間違いないどぉ。この間、テレビで見たからや」
「ねえ、誰なの?」
焦ったそうに聞く梓に、ユウキがにんまりと笑う。
「唾つけとけよ。あれは去年まで大臣やってた安永公平の息子よ。息子もまた生意気そうじゃがなあ」
周囲の二年生たちも口々に同意した。確かに、安永の顔には、ふてぶてしいと思われても仕方がない落ち着きが感じられた。
他の二年生たちには知らされていないが、安永は小学生でいじめのために不登校になり、シンガポールのイギリス人ばかりが行く寄宿学校の中学を出ている。不登校経験がある代議士の息子で帰国子女、ということになるが、弱々しいお坊ちゃんを想像していたところに現れた安永は映画で見るような「ストリート系の少年」だった。塙も実際に彼を見れば驚くだろう。
「はじめにガツンとやらんばや!」
ユウキが拳を掌に打ち付ける。
「やめてユウキ。俺がちゃんと教育するから、構わないで」
梓が目を輝かせた。
「安永くんって、マモルの部屋に入ってくるの?」
「そうだよ」
「じゃあ合コンしよう。うちの下宿とマモルの部屋で」
マモルは肩をがっくりと落とした。
「無理だよ。一年は、一学期の間は不要な外出禁止なの」
「そういうの流行らないって。あんたたちの伝統って人権侵害することしか考えてないじゃない」
2023.07.20(木)