モデル、タレント、女優、大喜利ファイター……。さまざまな顔を持つ滝沢カレンさんの初の短編集『馴染み知らずの物語』(早川書房)が2023年6月20日(火)に発売されます。朝日新聞のブックサイト「好書好日」の連載をまとめた今作は、世界の名作のタイトルとあらすじをヒントに、滝沢さんが独自に紡いだ新しい物語。カフカ『変身』、与謝野晶子『みだれ髪』、カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』、江國香織『号泣する準備はできていた』などの15篇が、原作とはまったく異なる光を放って目の前に現れます。

 独特の言葉づかいと想像力でのびのび繰り広げられる“カレンワールド”。そこには、文字への並々ならぬ愛と嘘のない滝沢さん自身が凝縮されています。


化粧水とドライヤーの物語!?

――連載は2018年から始まったんですね。名だたる文学作品から物語を広げていくという企画を聞いた時は、どう思われましたか。

滝沢カレンさん(以下、滝沢) なんて面白い企画だろうとワクワクしました。もうお話があるのに私がまたお話を作って、作者様たちはいいんだろうかとちょっと心配もしましたけど、自由にやってくださいと言っていただいて。私は“自由”が大好きですし、何かがあるなかでの物語作りはやったことがなかったので、とても嬉しかったですね。

 知っているお話だとどうしてもそちらに物語がいってしまいます。だから編集部から作品のリストをもらって、読んだことがない、映画でも見たことがないものにしようと。それで題名がキュンとくる、ときめきを感じるものを選ばせていただきました。

――題名とあらすじをヒントに物語を考えていったということですが、原作に寄り添った設定もあれば、まったく違うものもありました。どんなふうに書いていったのでしょうか。しっかりプロットを立てるというより、ひらめきを重視された感じでしょうか。

滝沢 そうです。ホンモノの書き方はやりたくてもできません(笑)。想像は勝手に広がるので、その時に書きたいと思ったことをそのまま書く感じです。最後から書いたこともありますし、真ん中で起こしたい大きな出来事を決めて、前や後ろたちをどうしようと連想したり、毎回いろんな方向から書きました。

 最近、書き下ろした『ザリガニの鳴くところ』というお話でいえば、あらすじに「湿地」が出てきたので、湿地といったら乾燥だなと思って、化粧水とドライヤーの話にしようとすぐ決まりました。乾燥は自分のお肌としても一番怖いこと。より気持ちがこもったお気に入りの物語になりました。

――“モイスチャー”という少女の物語ですね。ネーミングセンスもそうですが、どの作品も登場人物がいきいきして魅力的でした。独特の比喩で表現される情景も、ちょっとやみつきになります。

滝沢 ありがとうございます。登場人物は、夢でもなければ現実でもない人にしました。名前を付けるのが好きなので、それはすごく楽しかったですね。作者様がイギリスの方ならイギリスっぽい名前はこんな感じかなとか、名前を考えてから性格や顔つきを想像して、こんなしゃべり方でこんなことを言いそうかなとか、ふわふわ付け足して。そのほかのところは、なるべく殺風景な文字にならないように、物語に入り込んで書きました。

2023.06.20(火)
文=熊坂麻美
撮影=鈴木七絵