「CREA」2023年夏号は久しぶりに「母」をテーマにした特集です。
今回、10年ぶりにこの特集テーマを選んだ背景には、日本の女性たちにとって、「母になる」ことがもはや当たり前の選択肢ではなくなったという社会状況があります。政府が少子化対策を謳う一方で、なぜ出生率は下がる一方なのか? この10年間で女性たちの意識、社会はどう変わったのか? 「母」となった女性、「母」とならなかった女性がいま考えることは? 全80ページ強にわたって、徹底的に「母」について考えた1冊です。
CREA 2023年夏号
母って何?
特別定価950円
CREA WEBでは、「CREA」2023年夏号のコンテンツの一部を大公開します!
山下智久さんが向き合う相手は、常に自分自身。充実感を得ているか、情熱を傾けられるのかを自問自答し、納得が得られれば苦労も辛さも厭わない。
噓のない世界を目指し、ひたすら正直に、真っすぐ走り続けるー―。
まずは経験して、感じて、その上で自分に正直に選択していけばいい
表現者・山下智久の視線の先には、今、どんな景色が広がっているのか。日本国内以外にグローバルな作品へも積極的に参加し、ボーダーレスに活躍の場を広げている。多くの現場を経験したことで、自身の強みと弱みを改めて認識したと話す。
「忍耐力というか、集中力を持続できる時間は、長めのほうなんだなと思いました。ただし、あくまでも“自分が好きなことなら”ですけどね。嫌いなこと、苦手なことだとやっぱり難しい。それと、長所であり短所だと思うのは、一個のことしかできないところ。一つの作品に入っているときは頭がそれだけになって、人とも会えなくなる。気分転換もしないですね」
10代のころからアイドル、俳優と、キャリアを重ねていく中で生まれた、自分との約束事は「無理をしない」ことだという。
「無理をして周りに合わせても、やっぱりうまくいかないんです。自分が心から楽しいと思えることじゃないとダメだよね、と思う」
と、ふと思案する表情。何を思い浮かべたのかを聞けば、「いろいろな仕事を振り返っていました」と、真っすぐな瞳で答えた。
「仕事をしていくと、自分でコントロールできないところで、ワクワクすること、しないことが出てくると思うんです。それはたぶんどの仕事でも同じですよね。でも、仕事だからしょうがない、と簡単には片付けられない。ときめかないものは、結果的にうまくいかなかったりするので、気持ちが正直に出ちゃうんです」
自分の感情には嘘をつきたくないという。取り繕わない、仕事に対して生一本に向き合う誠意こそ、彼の矜持なのかもしれない。
「ときめいていない感じが出てしまうのは申し訳ないことなので、その場と距離を取ったほうがいいと思うことも増えてきました。ただし、いろいろやって、試して、無理なら退く。今の自分の経験値なら、そういった判断をしてもいいのかなと思うんです。やる前から“いや、これは無理です”と言うのは、違うと思うので。一回やって、経験して、感じて、その上で自分に正直に選択していけばいいというマインドでいますね」
キャリアも長くなれば培った経験や直感で判断することもできるかもしれないが、山下さんは何事もまずはトライしてから、と言い切った。真摯さが言葉の端々からうかがえる。
「無理に嫌なことをして、よそ見している時間なんてないんで。目標に向かって、真っすぐ正面から突き進んでいくしかないんです」
そうきっぱりと答えた、意気の高さが凜々しい山下さん。高揚感のある仕事を追い求め躍動したい。そんなほとばしる熱気が彼の全身を包んでいた。
2023.06.07(水)
Text=Kyoko Akayama
Photographs=Norihiko Okimura
Styling=Go Momose
Hair & Make-up=Ichiki Kita(Permanent)