生きられる時間いっぱい書き続けたい

――ミステリー風、青春もの、児童文学、恋愛や家族愛を描いたものなど、物語のバリエーションもみどころだと思います。予想外のオチに驚くものもありつつ、読んだ後にほっこりしたり励まされたり、ちょっと教訓的な示唆に富むものもありました。そのあたりも意識されたのでしょうか。

滝沢 こんな言葉を発していいかわかりませんが、読む側がどう受け取るか、思いやったり狙ったりして書けるレベルにないのが正直な私です。書く側のことばかり考えた文字でしかないので、そう受け取ってもらえたならすごく嬉しいですし、その人が私の文字を成長させてくれているんだと思います。

 書き上がるといつも、早く読んでほしい気持ちでいっぱいになりました。でもそれは読み手に届けたいというより、「見て見て! こんなの書けたよ!」という子供ゴコロ(笑)。そういう私です。

――『馴染み知らずの物語』というタイトルは、滝沢さんがこだわってつけられたと聞きました。

滝沢 この本は、みんなが知っている馴染みのある題名に、誰も見たことがない馴染み知らずの物語がくっついているようなものです。親は有名だけど、子どもは誰? みたいな。こちらとしては申し訳ないくらい、読みにくい文章や表現があるんだろうなと思いながら書いていました。ですので、作者様が先に歩いてくれたからこそ、ついてこられた物語と思ってほしいなと。あとは単純に、「馴染み知らず」のリズムが好きというのもあります。

――滝沢さんは以前、NHKの国語講座の番組で金田一秀穂先生と共演されていました。金田一先生から教わったことで印象に残っているのはどんなことでしょうか。執筆にも活かされていますか?

滝沢 金田一先生はいつも私に、「日本語は自由でいい。伝わればいいんです」と言ってくれました。国語はいろんな形があって文法もあるけど、数学のように絶対はないと。その人が生みだした言葉が正しいかどうか、誰にもわからないからって。私が詩を書いても作文を書いても、必ずうんうんと首を縦に振って褒めてくれました。先生がいたから、こんな私でも書いていいんだと思えたというのは絶対的です。

 連載を担当してくれた方も、「文法が違います」なんて一度も言いませんでした。さんまさんもそうですが(※)、学校だったら首を横に振られていたかもしれないことを頷いてくれる方がメディアや芸能界には多いです。多すぎるほどです。

――滝沢さんのように独創的で面白くて、しかも誰も傷つけずに言葉を伝えるのはすごく難しいので、みんなうらやましい気持ちもあると思います。

滝沢 私からしたら、ちゃんと勉強していろんな知識を持って言葉を発しているみなさんがすごいのですが……。でもやっぱり、自分を頷いてもらえる場所にいられることはすごくありがたくて、居心地がいいです。芸能界に入って、やりたかった書く仕事がどんどん増えて、昔よりは自信を持って書けるようになりました。

――これから書きたい物語や目標を教えてください。

滝沢 文字だけで鳥肌が立つホラーです。この本にもホラーっぽいお話がありますが、全然まだまだで。もっとゾクゾク、膝から“ガク落ちる”くらいの怖さの、「一人じゃ読めません……」という声がどこかから聞こえてくるような作品をいつか書きたいですし、物語や文字を書くことは、私が生きられる人生分だけ続けたいなと。

 人生を写真で残すのは恥ずかしいけど、文字なら恥ずかしくありません。できれば5,000歳くらいまで長生きして、時々アルバムを開くみたいに自分の文字を見返して、「ああ、こんな姿の自分もいたよね」と笑いたいです。それで5,000歳の自分はまた全然違う世界と向き合って、全然違う文字で表現している。そんなことが生まれたらすごく嬉しいです。それが今の目標です。

(※)滝沢さんは、明石家さんまさんの番組でキャラクターを見出されたと言われています。

滝沢カレン(たきざわ・かれん)

東京都出身。ファッション誌『Oggi』の専属モデル。独特の言語センスで注目を集め、さまざまなメディアで活躍する。日本テレビ『沸騰ワード10』『行列のできる相談所』、TBSラジオ『パンサー向井の#ふらっと』などレギュラー多数。ブックサイト好書好日の連載「滝沢カレンの物語の一歩先へ」は隔月で継続中。

馴染み知らずの物語

定価 1,056円(税込)
著:滝沢カレン
ハヤカワ新書
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2023.06.20(火)
文=熊坂麻美
撮影=鈴木七絵