幼少期から子役として活動をはじめ、近年は声優にとどまらずアーティストとしても活躍する入野自由さん。『週刊文春エンタ+』より、彼のインタビューの一部を抜粋して掲載する(取材・文:一角二朗、撮影:石川啓次)。

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「子どものころから特撮作品への憧れが強かったんですよ。多くの人が昔の作品を観たくなるきっかけになるんじゃないかと、楽しみにしています」

 本誌の『シン・仮面ライダー』特集について話すと、入野の顔はほころんだ。

 入野は、特撮作品にも縁が深い。『仮面ライダーオーズ/OOO(オーズ)』では、自我が確立していない怪人アンク(ロスト)の声を演じている。

「怪人の吹替は、スーツアクターの方々の演技の魅力を、声で増幅させる感覚、ある意味自由さがあって楽しいですね。ただ、アンク(ロスト)に関しては、どこか純真無垢な部分がありながらも、それが真っ白じゃないという微妙な揺らぎのある役柄でしたから、難しかったです」

入野自由と「人の心の“揺らぎ”」

 入野は、人の心の“揺らぎ”を表現できるアクターだ。ヒット作『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のじんたんなどでキャラクターの揺れ動く心を見事に表現している。このたび『百花』の朗読担当に起用された理由も、そこにあるのかもしれない。

「主人公が自分と同世代なこともあって、人ごとではないな、と。原作も、坦々と物事が進んでいくリアルさがあります」

『百花』はもうすぐ子どもが生まれる主人公が、認知症を患った母との記憶を手繰り寄せていく、その心の揺らぎを描いた物語だ。

「言葉の一つひとつを大切にしていました。そんなふうに集中して小説を音読し続けていると、文字の波に飲み込まれてしまうような感覚になってしまって。ひとつのチャレンジとして、貴重な体験をさせてもらいました」

2023.06.04(日)
文=週刊文春出版部