その日、その時間に生まれた“生”の言葉で紡ぐ
――普段、本はほとんど読まないそうですが、物語を書く時に参考にしたものはあるのでしょうか。
滝沢 ありません。教科書も理想もないのが自分というか。昔から文字も書くことも大好きなんですが、じっくり1冊を読み切ることができないんです。本を書く人は読書家が多いイメージですし、「書きたいなら読めよ」って言われそうですけど(笑)、私はちょっと読んだら想像がどんどん広がってしまうし、何冊も同時に読み重ねて途中で終わってしまう。
そんな自分の、何も頼りにできない頭だから、書くものはその日、その時間に生まれた感情や脳みそを“ひん繰り返して”生み出した言葉でしかなくて。技術で一文字も書けていないからこそ、生ものみたいな感じなのかなと。
――では、今の自分には書けないと思う表現やお話もありますか。
滝沢 いっぱいあります。今回、本にするので読み返したのですが、自分じゃない自分が書いたような感覚でした。「こんな物語よく思いついたな!」とか「音楽性のあるこの言葉大好き!」と思うものがありながら、話が急に終わって「疲れていたのかな?」と思うものも(笑)。だから私にとってこの本は、その時どんな自分だったのかを思い出して楽しむ「秘密の日記」のような存在でもあります。
――モデルやテレビの仕事も忙しいなかで、毎月1本の物語を仕上げるのはとても大変だったと思います。書くのは時間がかかりましたか。
滝沢 家にいる時にスマホで書くことが多かったのですが、集中して飲み物にも手を付けず、3時間で書き終わったのが最大の速さ。この本に収録されている『みだれ髪』も同じくらい速く書けました。やっぱり速く書ける時は、「あれもこれも書きたい」「この展開にもしたい」って、どんどん出てくるから楽しくて楽しくて。
でも、私も人間ですので、ポンとスタンプを押すように書ける大吉の日だけではもちろんなくて、感情や言葉が出てこない大凶の日もあります。そんな時は「明日よろしく!」と、無理はしません。無理やり書いた文字は、次の日に必ずイヤになるからです。
というか、他人ですね、あれは。私は人見知りなので、他人の文字を見ると一気に愛が冷めてしまう。冷めた部分は書き直して、自分の文字と物語にちゃんと愛を持つ。それは大事にしたところだと思います。
そんなこんなありながら毎月どうにか書き上げました。私の中ではそれさえも物語で、修行のひとつだと思っています。5年目を突破してもまだ足りません。まだ修行は続きます。
2023.06.20(火)
文=熊坂麻美
撮影=鈴木七絵