この記事の連載

観察を通して学んだこと

 母親を軽くハグし、持っていたお菓子をすすめた。母親はそっけなく不機嫌そうだったが──そうやっていつも自分に注目を集める人だ──Cさんは気づかないふりをして、あえて反応しなかった。

 観察を通してCさんは「ママは自分のことしか考えていないし、娘であるわたしとかかわりたいという気持ちはないんだ」とようやく理解できた。

 こうして母親と精神的なつながりを持ちたいという思いを手放せたのだった。実際母親は、試合中ほとんどCさんに話しかけなかったそうだ。

 Cさんは心の準備ができていたので、淡々と母親を観察した。そして、母親が心からのコミュニケーションを避けていること、それどころか、自分が被害者のように振る舞っていることがわかった。

 その後Cさんは、母親との関係についてこんなふうに言っている。

「やっとわかったんです、あれが母なんだ──母の個性なんだって。わたしに問題があったわけじゃなかったんです。母が傷ついているんだと思いこまなくて、本当によかったです。自分の価値観と母の行動を切り離して考えられるようになった自分が、えらいと思います」

 Cさんはこれまでになく心が自由になった気がした。もう母親に拒まれることを気にしなくていいのだ。

 そして、「厳しい母親からいつか愛してもらえると期待する、心やさしい少女」という自分を手放し、ただの1人の大人として母親とつき合おうと思ったのだ。

» 【前篇】から読む

親といるとなぜか苦しい 「親という呪い」から自由になる方法

定価 1,650円(税込)
東洋経済新報社
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

← この連載をはじめから読む

2023.05.31(水)
著者=リンジー・C・ギブソン
監修=岡田尊司
翻訳=岩田佳代子
イラスト=有栖