この記事の連載

 今、夜な夜なマンガに夢中になっている大人が急増中。ある電子書店のデータによれば、マンガ作品がよく読まれるのは22時以降、ピークは深夜0時だそう。※

 眠りにつく前のひとときに、時代をあぶりだす社会派から大人の胸キュン、コッソリ読みたい一冊まで……。日中のあれこれを忘れさせ、新しい世界に連れ出してくれる作品に、CREA秋号「マンガ」特集では「夜ふかしマンガ大賞」を贈りました。

 今回は、オールタイムの名作から選ぶ11の部門賞のうち、マンガを通して様々な家庭を知ることで、自分にとっての「家族」を考えさせてくれる〈家族とは? 部門〉6作品を発表します。ライター井口さんがナビゲートする3作品と、マンガ好き推薦者の皆さんおすすめの3作品を続けてご紹介。

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» 「夜ふかしマンガ大賞」1位~4位はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」5位~10位はこちら
» 「夜ふかしマンガ大賞」〈番外篇〉ノミネート8作品はこちら
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» 「夜ふかしマンガ大賞」〈お仕事部門〉8作品はこちら
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CREA夜ふかしマンガ大賞とは…

マンガ好きの35名の推薦者とCREA編集部員の投票により選ばれた「思わず、夜ふかしして読みたくなる」そして、「今、CREA読者に本当におすすめしたい」作品に贈る賞。大賞は、2021年7月~22年6月末までに単行本の新刊が発売された(ただし、合計5巻以内)、もしくは、雑誌などに最新話が発表された作品から選出。各部門賞は、作品発表の時期や巻数に制限はありません。


普通の家族なんてどこにもないから

 「家族を思って心和む人、胸の痛む人、それはちょうど半々だと私は考える」とは、日本のホームドラマの礎を築いた「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」の演出家である久世光彦の言葉。家族というものの難しさを言い得た名言です。

 多くの人にとって家族とは、生まれた時すでにあったもので、それゆえ絶対になくてはならないものだと信じ、蔑ろにすることに罪悪感を抱く人は少なくありません。ここ10年ほどの間で、『海街diary』(吉田秋生/小学館)、『きのう何食べた?』(よしながふみ/講談社)、『水は海に向かって流れる』(田島列島/講談社)、『パパと親父のウチご飯』(豊田 悠/新潮社)など、血縁や婚姻関係にとらわれない家族を描いた作品は枚挙にいとまがなく、これは旧来的家族像へのささやかな抵抗であり、多くの人が家族に息苦しさを感じている証なのかもしれません。

 『違国日記』も、そんな新しい家族マンガ。世の中の“普通”に馴染めず、物語の世界に生きてきた槙生は、姉の遺児・朝と暮らすことになり、自分は彼女の母親のような愛は与えられないと言いつつ相手を尊重し、不器用ながらも理解しようとします。

 たとえ家族でも、血縁があってもなくても、人は誰もが「違う国」の住人。そんな本作のメッセージは「家族だから言わなくても分かる」といった幻想を軽やかに打ち砕き、歩み寄りさえすれば誰とだって家族になれるという希望を与えてもくれます。

 そんな家族に対するクールでやわらかな眼差しは、『の、ような。』にも通底してあるもの。〈新しいお父さんとお母さん?〉と尋ねてくる春陽に対し、希夏帆は母親にはなれないが一緒にいようと語りかけます。家族とはカレーのようなもの。同じルーを使って同じように作っても、同じ味にはならない。だから同じ味を目指さなくても、新しい味をみんなで作っていけばいい。そう思えば、家族に対するハードルも下がり、ラクに向き合える気もするのです。

 一転して『血の轍』は、血縁で結ばれた家族の物語。朝ごはんに肉まんとあんまん、どちらを食べるかという何気ないやりとりの中に匂わされる、息子を溺愛することで無意識に支配してきた歪な親子関係。その生々しいリアリティに我が身を振り返ってヒヤリ。「平穏な家族の日常」とは、案外こんな危うさの上に成り立っているもので、毒親云々でなくとも、家族とはちょっとしたボタンのかけ違いで美談にもホラーにも転じたりもします。

 結局、家族のカタチは家族の数だけ存在するもので、家族を息苦しく感じさせる原因は、ときに「家族とはこういうものだ」という自分自身の思い込みにあります。そういう意味でも、マンガを通して様々な家族を知ることは、呪縛を解き、自分にとって「ちょうどいい家族のカタチ」を見つける手助けにもなるのです。(井口さん)

◆『違国日記』ヤマシタトモコ

家族だって違う国の住人

 少女小説家の高代槙生は、交通事故で亡くなった姉の娘・朝を引き取る。人見知りの槙生と仔犬のように人懐っこく好奇心旺盛な朝との共同生活で語られる、槙生と朝の母との微妙な確執。朝と亡き両親との客観的対峙。世代も性格も人との距離感も大切なものも違う二人が会話し、互いを理解しようとする姿にじわりと幸福を感じる。

『違国日記』ヤマシタトモコ

祥伝社 748~792円 既刊9巻

◆『の、ような。』麻生 海

家族はなるのではなく作っていくもの

 ひとり暮らしの希夏帆は、恋人の愁人とその親戚で両親を亡くした兄弟と突如家族になる。激変した生活に戸惑いながらも受け入れ、自分の産んだ子だと逃げ場がなくて苦しいのかもと考えもする。〈はじめたばかりだし うまくいかない事多いだろうけど そんなのあたり前だからいいじゃない〉など、ハッとする言葉も多い。

『の、ような。』麻生 海

芳文社 649〜682円 既刊5巻

◆『血の轍』押見修造

家族とは常に危うさを孕んだもの

 中学2年生の長部静一は母・静子から愛情をたっぷり注がれ、平穏な日々を送っていた。だが夏休みのある日、親戚と出かけたハイキングでショッキングな事件が起き、静一は母への疑念と愛憎の果てに狂気へと誘われていく。サイコな毒母マンガと話題だが、本作で描かれる家族の描写には、誰しも思い当たる普遍性もある。

『血の轍』押見修造

小学館 607~715円 既刊13巻

井口啓子(いぐち・けいこ)
ライター

雑誌「ミーツ・リージョナル」にてコラム「おんな漫遊記」を連載中。女を描いた昭和の劇画家・上村一夫が好きすぎて展示を企画したり、小冊子を作ったりも。

2022.10.18(火)
Text=Keiko Iguchi

CREA 2022年秋号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

「夜ふかしマンガ大賞」発表!

CREA 2022年秋号

「夜ふかしマンガ大賞」発表!

特別定価930円

「CREA」2022年秋号は「夜ふかしマンガ」特集です。慌ただしい日々を過ごしていると、眠りにつく前のひと時くらい、すべてを忘れてマンガの世界に没頭したくなりますよね。そこで、時代をあぶりだす社会派から、大人の胸キュン、話題の新人作品まで、ぜひ読んで欲しい名作を集めた「夜ふかしマンガ大賞」をお届けします! 今年最注目の第一位は――!?