この記事の連載

 家族となかよくしようとするだけで、傷ついたり無力感にさいなまれ、親との関係に悩む人は多い。本当の自分を大切にし、親の影響下から抜け出して人生を歩むにはどうすればよいのだろうか。

 親とより対等で成熟した新しい関係を作っていくための実践的なステップを、臨床心理士のリンジー・C・ギブソンが綴った、『親といるとなぜか苦しい 「親という呪い」から自由になる方法』より、一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目。前篇を読む


断じて「親不孝」などではない

 この方法を初めて実践する人、それも特に親に実践する人には、共通する問題がみられる。中でもよくあるものを次にあげよう。それぞれの対処法も記しておく。

問題:親に対してこんなことをするなんて、自分が冷たい人間のような気がするし、むなしいと思う。それに、親といる間ずっと親のことを考えてなどいたくない。

対処法:万事うまくいっていて、親といて楽しいなら、こんな方法を試す必要はない。けれど感情的になったり、腹が立ったり、がっかりしたりするなら、客観的に観察し、その関係を管理するように気持ちを切り替えるのがいちばんだ。あなたは冷たくなどない。自分の心のバランスを保つために必要なことに意識を向けているだけだ。

問題:親と精神的な距離をとっていると、罪悪感を覚え、自分がずるい人間のように思える。親には心を開いて、ありのままの自分をみせたい。

対処法:意識して観察することは、ずるいわけでも、相手をだましているわけでもない。自分が感情的な反応の渦に引きこまれれば、だれにとってもマイナスにしかならないので、それを避けるために観察するのだ。

問題:わたしの親はとにかく気性が激しい上に、口がうまくて、とても太刀打ちできない。感情的に反応されると手に負えなくて、へきえきする。

対処法:それはいわゆる「情動感染」だ。だから「相手を観察すること」に集中していれば、相手が感情を爆発させても、それに飲みこまれることなく落ち着いていられる。

問題:親には本当によくしてもらっている。学費も出してくれたし、お金も貸してくれた。そんな親を精神的に未熟だと思うなんて、自分が情けない。そんな考えは間違っていると思う。

対処法:正しいも間違っているもない。親の精神的制約について判断したからといって、情けないわけでもない。精神的に成熟した大人になるには、何の制約もなく他者を観察し、判断しなければならない。ただし、心の中でだ。自分だけの考えを持つことは、裏切りではない。
 親にしてもらったことに感謝し、尊敬するのはいいが、親の弱さをみてみぬふりをする必要はない。2章で論じてきたように、子どもの物理的、経済的欲求を満たすことと、精神的な欲求を満たすことは同じではない。

2023.05.31(水)
著者=リンジー・C・ギブソン
監修=岡田尊司
翻訳=岩田佳代子
イラスト=有栖