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 取材会場に早めに着き、ソファに座って原稿を書いていたら誰かに声をかけられた。目を上げると、そこに中村倫也さんが立っていた。これは、いまから記す『宇宙人のあいつ』インタビュー前の出来事だ。

 初めて彼と言葉を交わしたのは3年ほど前だが、あのときもいまも飾らず気負わず、壁を作らずに接してくれる存在。ようやくこちらが慣れてきたとはいえ、やはり中村倫也さんが稀有な人物であることに変わりはない。多忙を極める人気実力派俳優であり、優れた文才を持つ言葉の使い手であり、それでいて旧来の友人のような気安い雰囲気を纏った好人物であり――。

 そんな彼が最新主演映画『宇宙人のあいつ』で演じたのは、なんと地球に留学中の土星人。彼は4人兄妹の次男・日出男のふりをし、長男・夢二(日村勇紀)、長女・想乃(伊藤沙莉)、三男・詩文(柄本時生)と暮らしている。しかし故郷に戻るタイムリミッ トが近づき……。

 奇想天外な設定を、するりと演じ切ってしまう巧者・中村倫也。彼がキャリアで培ってきたものづくりの思考を、じっくりと深掘りしていく。

記事に載っていない「秘蔵ショット」あり! 中村倫也さんのフォトギャラリー
後篇「“飽き性で好奇心が移り変わりがち”な僕が『宇宙人』になるまでの話」を読む


「役者・中村倫也」ができるまで

――今回も、のっけから濃いめの話をできればと思います(笑)。

 怖い!(笑)

――(笑)。まずは会員サイト「トップコートランド」内のコンテンツ「中村倫也のボルケーノラジオ」について……。その中で中村さんが「中村倫也が4人いる」と話されていたのが印象的でした。①俳優として ②インタビューやバラエティのとき ③エッセイ等の文章を書いているとき ④素 という分類をされていましたが、こうした出力の違いは意識的に分化させていったのでしょうか。

 多分、30歳くらいまでは1つだったように思います。①の役者としての中村倫也と、④の素の自分がほぼ同じでした。それが基本で、役によって求められるものが変わっていくなかで自分も変化していく形といいますか。そんな中で、「役者・中村倫也」というものが作り上げられていき、最初の分化がありました。

2023.05.20(土)
文=SYO
撮影=榎本麻美
ヘアメイク=Emiy(エミー)
スタイリスト=戸倉祥仁(holy.)