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「誠実」を考えだすと一人じゃ抱えきれなくなってしまう

 20代前半くらいまでは全然売れなかったから「売れるとかじゃねぇし」と尖ってた時期もありました。そのときはとにかく「質を高める」ことに固執していたモードでした。その中で気づいたのは、結局売れないと仕事が来ないということ。もちろん色々な生き方があると思いますが自分はそう感じて、頑張って売れようと努力して、いまお仕事がもらえるようになりました。

 動員や視聴率って「こういうことをしたら伸びる」という明確な答えがないからあやふやですが、後輩たちには「大前提のスタンスとして、売れたほうがいいよ」と伝えるようにはしています。変わったことといえば、それくらいでしょうか。

 「具体的な数字を伸ばすためにはこれをしたらいい」とかもないし、そもそもわからないし、だけど「いいものを作ったら広まっていく」というものも信じているし、そのうえで自分ができることをやっていくしかない。もうこの世界の色々なことが把握できない時代になってきているから、そういうなかで自分ができることは今日、明日に何をするかだと思うんです。

 そうすると一生懸命芝居をするとか、こういう風に取材で面白おかしく答えられたり、何か芯を食ったことを言えたらという思考になっていく。かつそこに嘘がないように、自分の言葉に責任を持てるように行動していくということの連続になっていきます。そういう意味では、意識的に考え方をシンプルにしているのかもしれません。

――「中村倫也のボルケーノラジオ」でも、「30歳を過ぎたあたりから“誠実”がひとつのテーマになった」と話されていましたね。

 そうですね。「誠実」というものにしても「どこに対して?」と考えていくと一人じゃ抱えきれないくらい膨らんでしまうから、自分がいま思う誠意――「今日そこに在る誠意」を大事にしていけば少なくとも失礼には当たらないだろうというつもりでは生きています。「今日そこに在る誠意」っていいフレーズだな……(笑)。

――中村さんから誠意、或いは誠実という言葉を聞いたときに、自分の中ですごく腑に落ちたんです。これだけ情報やコンテンツが氾濫している時代で、作り手の誠実さを感じられるかが受け手におけるひとつの拠り所になっていくというか。要は「信じられる」ということですよね。時代の気分として、必然的だと感じます。

2023.05.20(土)
文=SYO
撮影=榎本麻美
ヘアメイク=Emiy(エミー)
スタイリスト=戸倉祥仁(holy.)