コ・ドゥシムに自分の母の姿が重なった

 IU(イ・ジウン)にも夢中になった。是枝裕和監督にとられちゃったけど(笑)。是枝さんと僕は好みが似てる。その昔、僕がペ・ドゥナに夢中になって騒いでいたときもそう。気に入ると自分の映画に出演させちゃう。ズルいんだ(笑)。

 IUを知ったのは『マイ・ディア・ミスター』から。貧困に喘ぐヒロインを演じ、「おじさん」を演じるイ・ソンギュンが彼女の謎めいた魅力に引き込まれていくんだけど、僕も「おじさん」の気持ちになっちゃった。彼女が履いていたコンバース、同じのが欲しくなって買っちゃったもん(笑)。彼女、去年の年末にイ・ジョンソクとの交際を認めて大騒ぎになったけど、彼女自身もドラマを地で行くつらい子ども時代を経験しているから幸せになってほしい。

 気になるといえば、『カーテンコール』でおばあさん役を演じたコ・ドゥシムも。『カーテンコール』は、カン・ハヌル演じる無名の俳優が、余命幾ばくもない北朝鮮出身の「おばあさん」の孫を演じ、彼女の願いを叶えようとするヒューマンドラマ。ハ・ジウォンとか達者な俳優がたくさん登場する中、死にゆくおばあさんを演じるコ・ドゥシムに心を奪われた。

 昔から彼女は「女優の女王」と言われていて、品のある優しい“オモニ”を演じることが多いけど、僕はいまいちピンとこなかった。でも、『カーテンコール』で初めて彼女のよさがわかった。この役はこの人にしかできないなって。本当に死ぬんじゃないかと思うほどの演技力で、まるで自分の母親を見ている気分になるんだ。

 『ザ・グローリー〜輝かしき復讐〜』ソン・ヘギョの無表情演技も見ものです。自分をいじめた人たちに復讐をする非常につらくショッキングな内容で、彼女はいままで演じてきた「美しいソン・ヘギョ」を捨てているんだ。もちろん彼女は美しい。でも、氷のように冷たい。彼女のことは子役時代からずっと観ているけれど、すごい女優になったと感心する。

 朝鮮王朝の“大奥”もの『シュルプ』キム・ヘスもいい。彼女を知ったのは、ヨン様ことペ・ヨンジュン主演の『愛の群像』。ヨン様演じる主人公が余命宣告され、恋人を演じるキム・ヘスが彼の最期を看取るんだ。そのシーンの世界観が、僕が薬師丸ひろ子に書いた『Woman “Wの悲劇”より』とまったく同じ。いたく感動して、キム・ヘスの魅力をいろんな人に説明したけど、当時韓ドラを観ている人が全然いなくて誰も理解してくれなかった(笑)。それから20数年。キム・ヘスもいまやベテラン。王宮を走り回るだけで絵になる貫禄を身につけ、迫力のある女優になったね。

松本 隆さんおすすめの作品

◆『還魂』

魂を入れ替える“還魂術”により運命がねじれた主人公たちのファンタジーロマンス。

原作・制作:パク・ジュンファ、ホン・ジョンウン、ホン・ミラン
出演:イ・ジェウク、コ・ユンジョン・チョン・ソミン
2022年
Netflixシリーズ『還魂』パート1&パート2独占配信中


◆『私の解放日誌』

ソウル郊外に住む3きょうだいが自由と生きがいを求め奮闘するヒューマンドラマ。

原作・制作:キム・ソギュン、パク・ヘヨン
出演:イ・ミンギ、キム・ジウォン、ソン・ソック
2022年
Netflixシリーズ『私の解放日誌』独占配信中


◆『シュルプ』

未来の朝鮮王を育てるために日々奮闘する王妃の姿を描く。

原作・制作:キム・ヒョンシク、パク・バラ
出演:キム・ヘス、キム・ヘスク、チェ・ウォニョン
2022年
Netflixシリーズ『シュルプ』独占配信中


◆『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』

高校時代にひどいいじめをした同級生に人生をかけて復讐を果たす。

原作・制作:キム・ウンスク、アン・ギルホ
出演:ソン・ヘギョ、イ・ドヒョン、イム・ジヨン
2022年
Netflixシリーズ『ザ・グローリー ~輝かしき復讐~』独占配信中


◆『カーテンコール』

余命わずかな祖母の願いを叶えるため、その孫のふりをする男がやがて周囲を巻き込んでいく。

演出:ユン・サンホ、脚本:チョ・ソンゴル/出演:カン・ハヌル、ハ・ジウォン、コ・ドゥシム
2022年
©victorycontents
Prime Videoで独占配信中

2023.05.09(火)
Text=Izumi karashima

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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