川上 うんうん、書いてる最中はよくわからないよね。関係もそうだし、私は、『光のとこにいてね』を読んでて、どの人にも変なところとキラキラしているところが同居していて、それがいいなと思いました。そもそも関係性って、ひと言でまとめられるものじゃないですよね。「シスターフッド」とか「恋愛関係」とか。いずれにせよ、『光のとこにいてね』を何かにカテゴライズするのはもったいないと、個人的には思いますね。
一穂 自分でも、名づけてしまうと陳腐になるような気がして、二人のことを作者が無理にコントロールするのはやめよう、関係性を言葉でくくるのはやめよう、と思いました。
川上 一穂さんは、『パラソルでパラシュート』でも名づけられない関係を描いていますよね。名づけられない関係の人たちのことを書くのがすごくうまい小説家なんだな、と思いながら読みました。一方で一穂さんはボーイズラブ小説(BL)もお書きになっていて、BLは「型」が決まっているのかな。その決まった型のなかで自由に踊る、みたいな? 文芸誌に書くときとは、やっぱり何か違いますか?
一穂 違いますね。BLってむしろ、自分のテンションがあがらないと書けないんですよ。たとえば「次はアラブの石油王と日本のサラリーマンで書いてください」とオーダーをいただいても、私が本当にその設定にドキドキしてないとダメで。理屈だけで書いたら読者にもすぐ噓だとばれちゃうので、自分ファーストじゃないと書けない。BLの読者は好みがすごく細分化していて、結果、そのシチュエーションに萌える人が読んでくれるということで市場が成立している気がします。
川上 それはなんというか……、プロの技術者ですね。
一穂 ラーメン屋で修業している感じですかね。ラーメンという枠組みのなかでは何をしてもいいんだけど、ラーメン以外は出しちゃダメ、というのがBLです。それに比べて、文芸誌はなんでもありの大衆食堂というか。ラーメンを出してもいいし、出さなくてもいい。もちろん、ほかのメニューもあってもいいし、なくてもいい。その自由さが少し怖くもあります。
2023.04.07(金)